第百三十一話 預言者との遭遇
誠哉とユキの姿は、先代勇者が最後に目撃されたという場所を訪れていた。
そこは、大通りから少し外れた路地裏で、地元の人もあまり近寄らない場所なのだという。
「前もそうだったけれど、ちょっと怖いね」
ユキは誠哉の服の袖をグイッと引っ張り、若干後ろに隠れる形となる。
「確かにな。でも、面倒なことに捜索が行き詰っている以上、原点に返るのが一番いんらしいよ。それに、偶然にも通行人がいるみたいだし……」
誠哉の視線の先にいるのは、この道に入った時はいなかった緑髪の女性であった。
どことなく、マアサを幾分か成長させたような見た目の女性は、こちらに背を向けて佇んでいた。
「あなたは?」
ユキが問おうとすると、突風が路地裏を駆け抜けた。
「知ろうとするな。見ようとするな。聞こうとするな。理解しようとするな。あなたたちは、戻れなくなる」
「どういうことだ?」
「その理由を知る必要はない。本来、あるべきものはあるべき場所へ行くべきなのだ。そなたは、こちらのニンゲンではない。この現実を見ずに背を向けよ。帰るならばいまなるぞ」
女性はこちらを見ないまま、言葉を紡ぐ。
「ボクは単純に人を探しているだけだ。面倒なことに君が言っているようなことには関係しないと思いたいんだけど……どうかな?」
「関係なければ、わざわざ警告するために姿を現したりはせぬ。そなたからは不穏な未来が見える。わざわざ預言者たる私が来ているのだ。聞き入れよ」
「預言者?」
誠哉の中にある預言者のイメージと言えば、ノストラダムスのような人たちだ。
だが、目の前の女性の言うことはそれとは少し次元が違う気がした。
「我は預言者。未来を紡ぎ、統制する者。そなたは、このまま進めば我ら預言者の干渉すら退け、悲惨な未来へと踏み出すことになろうぞ。それでも良いのか? 引き返すのならば今のうち。そして、今回のことは忘れろ。記憶に残すな。抹消しろ。思い出そうとするな」
「なにを……」
「先ほども言った。知ろうとするな。見ようとするな。聞こうとするな。理解しようとするな。そなたは取り返しつとかないことになり、今日という日常に引き返せなくなる。警告はしたぞ」
そういうと、預言者なる緑髪の女性は、無数の光となって消滅した。
「どういうことだ?」
誠哉はわけがわからないといわんばかりにその場に座ってしまった。
すると、後ろに立っていたユキが突然、気を失って倒れてしまった。
「ユキ? ユキ!」
誠哉は、ユキを抱きかかえて大通りに向けて走り出す。
行きがけに一瞬、路地裏を振り返ったが、誠哉は一目散に走り去っていった。
*
「つくづくお人よしね。勝手にさせておけばいいのに……」
そんな様子を建物の屋根に座って眺めている少女がいた。
いかにもつまらなさそうにしている少女の横に緑髪の女性が現れる。
「それは悪かったの。観測者」
「えぇ、見たところあの維持装置の未来をいじって病気にした。そんなところかしら……」
「そうであるぞ。それにしても、そなたも十分にお人よしではないのか? 維持装置と主人公が一緒に歩いていたところで、周りからは兄妹であると錯覚させるように世界をいじるなど、以前のそなたなら考えられぬぞ」
預言者の言葉を聞いた観測者は、くすくすと笑い始める。
「別にそんな意図はないわ。ただ、私という存在へ対する認識を少しいじっただけよ。それは、その過程で必要になったから、そうした。それまでよ」
「そうか? それならばよいのだが……」
「そうそう。あれは、私のものよ。譲る気はないわ。誰にもね……一葉の兄にして、世界を造り変えられる可能性を秘める魔王の兄……本当に素晴らしいわ」
観測者のつぶやきは、虚空へと吸い込まれていった。




