第百三十話 誠哉の考察
新聞社を出た誠哉とユキの表情はどことなく重苦しかった。
「セイヤお兄様、先代勇者ってどんな人なんでしょうね?」
「さぁな。面倒なことに誰もそんなことは言わないからな。話を聞けば、世界をすくった英雄だの何だのっていう話ばっかりだからな……」
王都で銀髪の少女を見なかったかと聞くと同時に一部の人には、先代勇者について知っているかという質問をしてみたのだ。
状況が状況なのであまりおおっぴらには聞けなかったが、彼女の直属の部下だったという男も、彼女の人格については一切話さなかった。
「……先代勇者としてではなく、一個人としてのセリアさんはどんな人だったんでしょうか? それが、少しでもわかれば、いいんですけれど……」
「だな。でも、誰かに聞こうにも面倒なことに先代勇者は出身や年齢と言ったたぐいの情報が一切隠されているからな……過去の彼女を知っている人間ってどのくらいいるんだろうな……人間関係とは言わなくとも、せめて出身ぐらいわかればまだ、糸口があるんだろうけれど……」
出身地がわかれば、そこに帰っているのではないかという推測が立つ。
でも、そんな情報は全くない。
だから、彼女の人となりは分からないし、行きそうな場所も全く見当がつかない状態だ。
「これじゃ、探す気も失せるのかもな」
「そうですね。でも、セイヤお兄様。あの新聞記者、どう思うの?」
「どうしたんだ? 急に」
川代玲奈と名乗ったあの新聞記者は、恐らく日本人だろう。
名前もそうだが、容姿というか雰囲気というか、そんなものが日本人であるということを語っている気がしたのだ。
「だって、図書館でどんな魔法が使われてたか言い当てたんだよ? 普通の人じゃできないでしょ?」
「言われてみれば……」
確かにそうだ。
魔法が使われたことを感知できる魔法使いは多々いるが、その種類や成功したか否かまで観測できる魔法使いは非常に貴重な存在だ。
おそらく、そこまで行けば魔女を名乗ってもそん色ないだろう。
「でも、あの人魔女じゃなくて、普通の人だった。たぶん、何か隠してるよ。あの新聞記者」
「だろうな。面倒だけど、だんだんと話が複雑になってきやがってる……どうしたらいいんだろうな」
誠哉は大きくため息をついて、ユキの頭をなでた。
森の迷宮の事件なんかはある意味単純だった。
敵ははっきりしているし、なによりも誰が仲間かしっかりと認識できていた。
しかし、今回は複雑だ。
誰をどこまで信頼していいかわからない。アンナですらだ。
あまり疑心暗鬼になりすぎるのもよくないとわかっているつもりだが、ことはそんな簡単な話ではない。
「そうだな……王都を出て探すことも考えた方がいいかもしれないな」
「やっぱり、そうなるのかな? うん。そうだよね。たぶん、王都にはいないだろうし。でも……」
誠哉は立ち止まって空を見上げた。
「でも?」
「なんだか気になるんだよな。面倒なことに間違った方向に進んでいる気がして……そもそも、先代勇者の命の危機ってところから、何にもわからないじゃ、とてもじゃないけれど依頼を完遂できるとは思えない。あの後、マリー館長のところに行こうとしても、依頼が達成されていないからと言って中に入れてくれないし、近衛兵にそれとなく先代勇者のことを聞いてもたいした答えは返ってこない。面倒なことにおかしなことに巻き込まれている気がしてならないんだよね。だから、もう少し先代勇者を探しているそぶりを見せながらおとなしくしようかなって思ってるんだよ」
そういうと、再び誠哉は足早に歩き始めた。
「セイヤお兄様。お兄様は何をお考えているの?」
ユキのつぶやきは、風に乗り王都のざわめきの中に消えて行った。




