第百二十五話 館長の話
夜。
仕事が終わったアンジェルは、怜菜とナタリーを引き連れてマリーのところを訪ねた。
マリーは自分たちの顔を見ると、一瞬、驚きの色が浮かぶが、すぐに元通りになる。
「珍しい組み合わせね。どこの新聞記者はともかくとして……」
マリーは徐々に視線を動かして、やがてナタリーの姿をとらえると、それを止めた。
「まさか、あなたまで関与してるなんて……あきれてものも言えないわ。あなたは、司書を監督する立場にあるのでしょう? そんなあなたが、むしろ協力して手助けするなんて……」
「もしわけございません」
普段の態度とは全く違い、ナタリーは深々と頭を下げる。
「まったく……まぁいいわ。今回は見逃してあげる……それにそういった調査意欲というのは王宮図書館司書に必要なもののひとつよ。調べたいなら調べなさい。その代わり、同じような目に合っても今度は助けないから」
マリーはナタリーたちに背を向けて歩き出した。
「待ってください。失礼だとは思いますが、一つ聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「何?」
立ち去るマリーに話しかけたのは怜奈だった。
マリーはあからさまにわずらわしいというような態度をとりつつもこちらを振り向いた。
「あの……館長と観測者はどういった関係なんですか? せめて、それだけでも……」
「答えるわけにはいかないわ。答える義務もないしね。さっきも言ったけど、今後余計な詮索はしないでね」
そういうと、今度こそマリーは立ち去って行った。
*
「割と痛い目見ましたね」
新日新聞本社の建物の中。
応接室のソファーに座った怜菜が大きなため息をついた。
怜菜の向かい側には、アンジェルとナタリーが座った。
「でも、どうするの? 館長にあんなこと言われちゃうと……」
「いや、私はあきらめません! 彼女が観測者であるとわかった以上、マリー館長とあのアルドンサ・マリ・モンテジョルとかいう観測者の関係が気になるのが記者というものです! なにがなんでも調べます!」
怜菜は、机をどんとたたいて、かなり強気だ。
直接、アルドンサに殺されかけたわけではないからとも考えられるが、たとえ、一緒に追い回されたぐらいで彼女は取材をやめないかもしれない。
彼女はそういう人だ。
事件と聞けば、どんな危険な現場にも飛び込んでいき、それを記事にする彼女は、そんな人間だ。
「わかったわ。付き合えばいいんでしょ? 今度は、悟られないようにもっとこそっと調べを入れましょう」
「そうですね……ただ、アンジェルには少しの間、静かにしていてもらうけど……」
「えっどうして?」
アンジェルが聞くと、怜菜は深刻そうな顔で手帳を広げた。
「冷静に考えてください。観測者というのは、空から私たちのことを傍観しています。まぁ個人個人には及ばないでしょうが……しかし、あのアルドンサという観測者は、ピンポイントでアンジェルを狙ってきて、その上に仲間が誰か吐けと言い出したんです。おかしくないですか? 観測者だったら、わざわざアンジェルに言わせる必要ない。それぐらい調べがついてしかるべきじゃないですか?」
「まぁ確かにそうですねーじゃ、あなたの言い分を聞くとあれは偽物だって聞こえますけど?」
「いや、それはないと思う。私たちならともかく、真実の魔女たるマリー館長をだませるとは思いません。なので、本物の観測者であるが、何かしらの理由があってアンジェルを見ていたという可能性すら出てくるんですよね……考えすぎでしょうか?」
怜菜の意見は、自分たちを納得させるには十分だった。
「だとしたら、このままで……」
「コソコソと作戦会議か? 本当に懲りないやつらだ」
怜菜が作戦を決しようとしたときに聞こえてきたその声に場が凍りついた。
「柴。どうしてここに?」
「久しぶりだな怜菜。相変わらず、くだらないことを続けているのか?」
「わるかったですね! でも、やめませんよ! これは私の生きがいなんですからね!」
怜菜がびしっと柴を指差したが、柴は深くため息をついただけだった。
「くだらない、そもそもそんな議論をしに来たわけじゃないからな。私が用があるのは、アンジェル。君だ」
「えっ私?」
「そうだ。ちょっと、来てもらおうか。それと、ナタリー司書長も一緒に来てもらいます」
そういうと、柴はアンジェルの手をつかんで部屋を出て行った。




