第十二話 勇者の特徴
先ほどまでのあわただしさがウソのように穏やかな時間が流れていた。
治療が終わるころにはすっかりと日も暮れていて、アンナはスヤスヤと寝息を立てていた。アリスはというと、案の定近くの薬草を持ってきていて、中に睡眠効果があるものもあったため、アンナに嗅がせたのだ。
「それで? どうして、剣を振るだけで魔力切れなんてものが起きるわけ? そもそも、面倒なことにただの魔力切れの症状には見えなかったけど?」
「そういえば、お話しする約束でしたわね。前提としてそもそも、勇者も魔王も通常ならば尋常でないほどの魔力を持っていることが選考基準の一つになっていることぐらいご存知ですわよね?」
「まぁな。そのせいで面倒なことにこっちに召喚されたんだからな」
今思い出してもびっくりする。
日本で普通に高校生をやっていた自分が、ある日突然異世界に召喚されて、魔力が豊富だったのでお呼びいたしました。魔王になってください。なんて言われたのは記憶に新しい。
「それがどうしたんだ? というか、魔王はともかく勇者も同じ基準なんだな」
「えぇ。と言いましても求められる魔力の量に若干の違いはあるようですが……そもそも、勇者が魔力を必要とする最大の理由は他でもない聖剣にありますの」
「聖剣に?」
「えぇ」
アンナが振るっている剣を見てみるが、特別魔法的な装飾を感じなかった。
しいて言えば、他の剣よりも若干異様な雰囲気をまとっているように感じた。
「実を言いますと、勇者の聖剣には歴代魔王の怨嗟による呪いがかかっていますの。先々代のような場合を除き歴代魔王は歴代勇者によって殺されるという歴史が繰り返されていますの。勇者と魔王は戦い魔王は果てる。それが、世界の理ですわ。私にお兄様がいるように歴代の魔王にも関わりの深い人間というのは大勢いますの。魔王が、勇者が誕生するたびに生まれ積もっていく憎しみが……恨みがあの聖剣には宿っていますの」
「もしかして、魔力で無理やり呪いを抑えるなんて面倒なことやっているのか?」
「その通りですわ」
聞くところによるとマアサはちょうど十代目にあたるらしい。
先々代と誠哉は、勇者と戦わずして退位していいるため、実質八人分の怨嗟があの聖剣にかけられていることになる。
それがどれほどのものか知らないが、魔力だけで抑えるとなるとかなり困難なことだと容易に想像が言った。
「それならおかしくないか? 普通ならそれに耐えられるような人間を選ぶんだろ?」
「えぇ。普通でしたらそうですわ……しかし、どういうわけか勇者アンナの魔力は歴代勇者はおろか、凡人にすら劣る量しか保有していませんの。いったいどうやって魔力切れを防いでいるのかは知りませんが、戦闘の最中に魔力切れを起こす原因があったと思いますの」
「なるほど……そういうことか」
目の前のホワイトドッグに集中していたせいで彼女の戦闘スタイルを見ることはできなかったが、少なくとも魔法は使っていなかったように見えた。
そうなってくると彼女の魔力切れの根本的な原因はどこにあるのだろうか?
そもそも、そんなものは彼女自身が知っていればいいのかもしれないが、一緒に戦うという場面がある限り、ある程度は知っていたいものだ。
「まぁ本人に話してもらうしか方法はありませんので、彼女が起きるのをおとなしく待っていてくださいまし」
「わかってるよ」
いくら魔王と言えども調査能力には限界がある。
恐らく、アンナが魔力切れをなかなか起こさない理由なんて言うものは対外的に知られたくない情報だろうからなおさらだ。
誠哉たちはアンナの寝顔をただただ見守っていた。




