第百二十一話 黒髪の兄妹
怜菜から解放されたアンジェルは王都の中心を貫くように整備されている大通りを歩いていた。
この通りは、人通りも多くたくさんの商店が密集しているため、かなり活発ないったいだ。
「はぁどうしたもんかな……」
アンジェルは小さくため息をついた。
これまでも取材だったり、調査依頼だったりをなし崩し的に受けてきたが、今回ばかりはあまりにも厄介だ。
せっかくの休日だというのに怜菜のせいでそのことばかりが頭の中をぐるぐるとまわって、当てもなく街の中を歩いていた。
「すいません! そこの君。ちょっといいかな?」
ついつい話を受けてしまったことを後悔しつつ、歩いていると、後ろから男性の声を話しかけられた。
振り向いてみると、そこに立っていたのは黒髪の男性と同じく黒髪の少女だ。
顔立ちが似ているところを見ると、兄妹か親子なのだろうか?
いや、男性の年齢からして親子はありえないだろうと頭を振って再び、二人を見た。
「どうしました?」
「なんというか、面倒なことに道に迷ってしまって……新日新聞の建物ってどこにあるかわかりますか?」
「新日新聞ですか?」
なんでよりにもよって、こんなことを聞かれるのだろうか?
見たところ、新日新聞の記者であることを示す腕章をつけていないので、関係者ではないのは明らかだ。
「新聞が読みたいだけでしたら、そこら辺の喫茶店にも置いてありますよ」
よく、王都の外から来る旅人はもの珍しさに新聞を読むことがあるという噂を聞いたことがある。
彼らの服装や荷物の量を見る限り、王都の住んでいるとは思えなかったので当たり障りのない返答をしてみた。
ただ、もの珍しさで新聞を読みたい旅人ならそれで納得してくれるはずだ。
しかし、残念なことに怜菜の予想とは違い、彼はその口ではなかったようだ。
「新聞が読みたいだけだったら、それでありがとうございますでいいんだけど、ボクは面倒なことに新日新聞の怜菜っていう記者に用があるんだよね。要するに彼女に会えるなら新日新聞まで行かなくてもいいんだけど……」
「なるほど。そういうことですか……でしたら、この大通りをこのまま進んで行くと、古書を扱う本屋があります。そこの角を左に曲がっていただいてしばらく進めばそこにありますので……これで大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」
そう言って、男性は少女の手を引いて歩き出した。
アンジェルはその二人とは別の方向へと歩き出す。
「そういえば、一つだけ聞いてもいい?」
「なんでしょうか?」
アンジェルは足を止めて二人の方を振り返る。
「面倒だけどさ、人を探してて……」
「怜菜でしたら、新日新聞に戻っていると思いますけど?」
「いや、そうじゃなくて……銀髪の女の子……そうだな。十代後半ぐらいの子なんだけど見たことは?」
話の流れがまったくつかめない。
別段、人探しだったら新聞記者よりも冒険者ギルドの方に行くのが筋だ。それとも、人探しと怜菜への用というのは別件なのだろうか?
それはさておいて、記憶を探ってみるが彼が言ってたような人物は思い当たらなかった。
「ないですね。もういいですか?」
「そうか……ありがとう。面倒なことに話し込んじゃって悪かったね。それじゃ、ユキ行こうか」
「はい!」
男性はユキと呼んだ少女の手を引いて、今度こそこの場から立ち去って行った。
「にしても、あの人どこかで……」
見覚えがあるような気がしたのは、気のせいだろうか?
だが、今の彼女にはそれを気にするほどの余裕はなく、今後のことを考えるためにどこかで一人で落ち着きたかったのだ。
アンジェルは、大きなため息をついて王都のはずれに向かって歩き出した。




