第百十九話 新聞記者の依頼
アンジェルがマリーのもとにたどり着くころには、すでに怜菜が到着していて、マリーと談笑していた。
「やっほ、先に来ちゃいましたー!」
「アンジェル。取材の件なら問題ないわ。一日休みにしておくから、図書館の外でゆっくりとして来なさい」
「えっあの……」
まさか、マリーがすんなりと承認するとは思わずアンジェルは、たじろいてしまった。
抗議をしようとも考えたが、取材のあとに待っている臨時休暇がかなり魅力的に感じた。
「嫌なら断ってもいいのよ」
マリーは、いつの間にか控えていた司書長が入れた紅茶を口に含む。
その姿は、別段この出来事に関心がないと語っているように見えた。
「わかりました。取材、受けます」
「そう。わかったわ。だったら、そういう風に手配しておくわ。ナタリー」
「かしこまりました」
ナタリーは頭を下げてその場から瞬時に消え去った。
*
図書館を出たアンジェルと怜奈の姿は、王都近郊の喫茶店にあった。
怜菜は席に着き、紅茶を二つ頼むと、真剣な表情でこちらを見た。
「さてと……事前に言っておきますが、取材というのはあくまで表向きです。実は、図書館司書の中でも比較的館長に近いあなたに頼みたいことがあります」
そういうと、怜菜はいくつかの絵(写真というらしい)をアンジェルの前に置く。
そのうちの一番上の写真に写っていたのは、マリーと魔王マアサと黒髪に白いドレスという容姿の少女姿であった。
怜菜が写真を一枚ずつアンジェルに見せる。
それらは少しずつ角度や場面が違うのだが、基本的には同じ面々が写った写真だ。
「これは……」
あまりにも意外すぎて言葉が出なかった。
この中に混ざっている少女が何者かという以前に魔王がやすやすと王宮内に侵入し、図書館で館長と談笑しているという事実の方が衝撃的だった。
いくら魔女が絶対的中立の立場をとるのだとしても、王宮内の図書館に魔王を誘い込むなど信じられない行為だ。
「さて、あなたの意識がどこに向いているか、なんとなく予想できますが、魔王が図書館にいることは問題ありません。魔女は絶対的中立ですので、彼女の住居スペースともいえる王宮図書館は館長の許可さえ下りれば万人が利用できる、王宮内の中立地帯です。もちろん、彼女が図書館から一歩でも出れば問題ですが、彼女自身瞬間移動で直接、図書館へと飛んでいるようですから、これに関しては問題なしです。私が調べてほしいのは、ここ」
そう言って、怜菜が黒髪の人物を指差した。
「この人のことを調べてほしいんです。魔王と王宮図書館館長に混じって話をしているとなると、それなりの立場にいるか、どちらかの個人的な友人という可能性があります。ですが、私はそのどちらでもない……しいて言えば前者であると考えています」
ちょうど、そのタイミングで紅茶が二つでてきて、怜菜は少し多めに砂糖を入れてそれに口をつける。
「ところで観測者ってご存知ですか?」
あまりに唐突に関係のなさそうな話を振ってくるものだから、アンジェルは口をぽかんとあけてしまった。
「あら、ご存じない?」
「いえ、そういうわけでは……あまりに唐突だったから……ともかく、観測者というと、神話に出てくる神を目指した人々でしょ? それがどうかしたの?」
怜菜は、待ってましたといわんばかりに大量の資料をカバンから引っ張り出した。
しかしながら、彼女が持っているカバンは少し小ぶりなのに見た目だけでいえば何倍の量もある資料をしっかりと入れているのだ。
いったい、あのかばんはどんな仕組みになっているのだろうか? もしかしたら、昔、異世界から流れ着いた本に書かれていた青色の狸が持つ半月型のポケットのようになっているのかもしれない。
「実はですね……」
怜菜は、大量の資料を使ってアンジェルに事の顛末を説明し始めた。




