第百十話 新人メイド
マアサは、城に帰ると少女をある場所へ案内する。
「それにしても本当によろしいですの?」
「はい。ただ住まわせてもらうのも悪いので……」
彼女は、メイドとして仕えたいと望んだのだ。
なので、ノエルの直属の部下として扱うことになる。
「あの……マアサ様」
「あなたにそういわれると変な感じがしますわね……いいですわよ。私やノエルというときは今まで通りに接してくださいまし。それで? 何の用ですの?」
たどたどしく様付でマアサを呼ぶ彼女を見てかわいいなどと思ってしまうが、マアサは気を引き締めて彼女に接する。
「はい。ノエルから聞いたのですが、マアサはよく街に降りるそうで……それで、街を見たいのでぜひとも同行させてください」
「それぐらいならいいですわ。また行くときには声をかけますわ。それと、一つやることがありますの」
「やることですか?」
「えぇ。あなたの名前を決めますの。じゃないと呼びにくいですわ」
マアサの言葉を聞いた少女の顔がパッと明るくなる。
これに関しては、セイヤと会った帰りにマリーの図書館で命名図鑑を借りているので、それを参考に決めるつもりだ。
まぁ借りるときにマリーにとんでもない勘違いをされてしまったが……
「何が、いつの間にかお兄様が旦那さんになったの? よ……マリーの奴、さんざん言ってくれますの」
「どうしたんですか?」
「何でもないですの」
どうやら口に出ていたようだ。
それにしても、珍しく表情が変わったと思ったらそれなのだから、マアサとしてはあきれざるを得なかった。
それにしても、彼女は気になることを言っていた。
先代勇者が行方をくらませてしまった……まったく消息がつかめない。
残念ながら、マアサは直接先代勇者のことを知らなかったが、彼女にしては珍しく本気で人のことを心配しているものだから、何かあるのではないかと思えてならない。
「にしても、ノエルはどこに行きましたの? さっきまでいたといいますのに」
ノエルの転移魔法は基本的に魔方陣を必要としない。また、特別な動きが必要というわけでもないので、時間さえあれば気づけばいなくなるというのは伊達にあることだ。
「私ならここに」
「突然現れないでくださいまし!」
突然、背後に姿を現したメイド長を一喝して、マアサは自らの寝室の扉の前に立った。
「ここが私の寝室ですの。まぁ仕事の詳しい説明はノエルがいたしますの。私は、仕事に戻りますの」
そういうと、マアサは瞬間移動でその場から姿を消す。
「さて、それでは仕事といたしましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
ノエルは、直観的にマアサが執務室へ向かったわけではないと感じていたが、あえて放置しておく。
町に降りているときもそうだが、彼女が無策で動くわけがないのだから。
「さぁ部屋に入ってください」
ノエルは扉を開けて少女を部屋に招き入れた。
*
寝室前から瞬間移動でとんだマアサの姿は、診療所付近にあった。
少し待っていると、仕事を終えたとみられるリンの姿をとらえると彼女の背後に瞬間移動する。
「少しよろしいですの?」
「あら、魔王様がこんな時間に……メイド長がさぞご立腹では?」
「そんなことはいいですの。ここではなんですし、場所を変えてお話いたしましょう?」
話をするマアサの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。対する、リンはどこか居心地が悪そうなあいまいな笑みを浮かべている。
「わかったわ。あなたの行きつけの小料理屋なんてどう?」
「いいですわね。そういたしましょうか」
あきらめたようなリンとどこか勝ち誇ったようなマアサは、街へ向けて歩き出した。
読んでいただきありがとうございます。
話がスローペースでなかなか進んでおりませんが、もう少々お付き合いくださいませ。
これからもよろしくお願いします。




