第百八話 記憶喪失の少女
しばらく待っていると、少女との面会を許された。
マアサが入っていくとベットの上の銀髪の少女は、全身に包帯を巻かれて上体を起こしていた。
「あなたは?」
「私はマアサですわ。それでこっちはノエルですわ」
ノエルがゆったりとした動作で頭を下げる。
少女は、マアサたちの名前を聞いて笑顔を浮かべた。
「あぁ助けていただいたそうで……ありがとうございます」
「いえ……ところで、本当に何も覚えていませんの?」
「はい。残念ながら……」
病室に微妙な空気が流れる。
そんな中、口を開いたのはほかでもないノエルだった。
「ところで、あなたはこれからどうするつもりですか? 行く当てなどないのでは?」
「お恥ずかしながらそうですね……こんなけがをしてるんですし、しばらくはここにいることになりそうですが……」
そう言って、少女は顔を伏せる。
「まぁあれですの。ここまで来たら最後まで付き合いますわよ。もしも、あなたさえよければうちに迎えますわ」
「いいんですか?」
ふと、顔を上げた少女にマアサは笑顔を向ける。
「えぇ。今頃住民が一人増えたところでどうこうなりませんわよね? ノエル」
「はい。マアサ様のご一存があれば障害などないかと」
「そういうわけですわ。といっても、それをあなたに強制するつもりはありませんの……返事は、あなたがここを出るときに聞きますわ」
そういうと、マアサは瞬間移動で姿を消した。
それに続くようにノエルも転移魔法を発動させた。
*
魔王城に戻ってきたマアサは、政務室のイスに腰掛けた。
「ノエル」
「はっ」
「お茶を淹れてくださいまし」
「かしこまりました」
ノエルが部屋を出ていくのを確認すると、マアサは大きくため息をついた。
どうしてもあの少女のことが引っ掛かるのだ。
「あの少女……どこかで……」
「調べましょうか? 偶然にも暇なのよ」
背後から聞こえてきた声にマアサは思わずため息をついてしまった。
「私が言うのもあれかもしれませんけれど……入り口から入ってきたらどうですの? アルドンサ様」
マアサの後ろに立っていたのは闇夜の人形遣いこと観測者のアルドンサ・マリ・モンテジョルだ。
彼女は、いつも通りの無表情でマアサの後ろに立っていた。
「あら、私にはそんなこと関係ないわ。そんなことよりも暇というのは私たちのような存在を簡単に殺してしまうわ。だから、たまには協力しようといっているの」
「別に今回はあなた方の協力を仰ぐ必要はありませんわ。急ぎの事案でもありませんし、こちらで勝手にやらせてもらいますわ……それにしても、あれでよかったんですの?」
「何のこと?」
ちょうどその時、戻ってきたノエルが“二人分”の紅茶を机の置いた。
「あら、さすがメイド長。わかってるわね」
「はい。気配で来訪がわかりましたので」
そういうと、ノエルは頭を下げてから部屋を出て行った。
「それよりも、例のアレ。どうなったの?」
「あぁアレでしたらつつがないですわ」
「そう、ならいいけれど……そろそろ真実の魔女あたりが感づきそうね。そこらへんはどう?」
「そちらは問題ありませんの。起こっている事実にはさとい方ですが、それ以外はさっぱりなんですの。だから、ことが起こらない限り問題ないかと」
「そう。ならいいけど」
どことなく満足そうな表情を浮かべたアルドンサが紅茶に口をつける。
「協力している私が問うのもあれですが……あなたは何がしたいんですの?」
「あら、それは教えられないわ。時期が来たらわかるわよ。もちろん、あなたのお願いはかなえてあげるわ」
「なら、いいんですけれども……」
マアサは、少し不服そうな表情を浮かべながらもどこか納得したように紅茶に口を付けた。
「おいしいですわね」
「えぇ」
その後、二人の間にはたいした会話もなく、アルドンサは紅茶を飲んだ後に姿を消してしまった。




