第百五話 館長と魔王様
マアサはのんびりと紅茶を飲みながら、司書に適当に選んでこさせた本を読んでいた。
マリーは、空になった紅茶のカップを置くと、冷たい視線でマアサを見る。
「それで? いつまでここにいるわけ?」
「まぁもっと交渉に時間をかけるつもりでしたので……あっさりとしすぎて暇でしたの。ですから、もう少しいさせてもらいますわ」
「そう」
マリーはあまり気にはとめない様子で視線を本に落とした。
「そうだ。もう少しいるなら、聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
マリーは本に視線を落としたままマアサに話しかける。
「なんですの?」
「あなたは、結局何がしたいの?」
「なにって?」
彼女の質問の意図はなんとなく読み取れたが、確認の意味も込めて聞き返したのだ。
マリーは小さくため息をついて本を閉じた。
「あのね。さっき話していた密約のこともそうだけど、あなたが重度のブラコンだってことは重々承知しているわ。それを踏まえても不可解な点が多すぎるのよ。次代魔王を召還したかと思えば、その人物が王位を放棄するような行動をとっても黙認し、自らが魔王であり続ける。勇者が虚偽の報告をするように仕向けたかと思えば、同時進行で密約なんてものを結んでるし、口では文句は言っているものの観測者よりの行動をしながら、愛しのお兄様や勇者と一緒にいるときは敵対するような態度をとって自らの努力を水泡に帰すようなことまでやってのけた……簡単に言えば、あなたの行動には一貫性がないのよ。昔からそうだけど……」
「一貫性がない……まさにそうですわね。はたから見れば……」
「となると、違うのね」
「えぇ」
マアサは表情を崩すことなく紅茶を口に含む。
これまでの出来事はほぼ計画通りに進んでいるのだ。
パッと見一貫性がないのはもしもの時の為に保険をかけているからだ。
保険というのはいくらかけても損することはない。だから、できる限り保険は掛けるべきなのだ。
ただ一つ。たった一つだけ、マリーの発言の中で引っかかるものがある。
「ブラコンってなんですの?」
「……確か、ブラザーコンプレックスとか何とかいうやつの略称だったわね。ニホンの言葉で自ら兄妹を好きすぎてたまらない人のことを指すらしいわ。ちなみに姉妹の時はシスターコンプレックス。シスコンよ。柴がいうには、妹萌えっていう言葉もあるらしいけど……」
「へーニホンにはいろいろな言葉がありますのね。それはともかくとして……一貫性がないというお話ですわよね?」
大幅に脱線しかけている話を強引に引き戻す。
マアサは、不敵な笑みを浮かべて紅茶を口に含む。
「せっかちね……事を急ぎすぎると損するわよ」
「確かにあなたとゆっくりとお話してるのもいいですが……やっぱり、やることは済ませておかないといけませんし……この調子ですと、その辺の話をせずに終わりそうですわ」
「あら、結局私にいろいろ突っ込んでほしかったのかしら?」
ようやく本から視線を上げてマアサの顔を見るマリーはあきれ顔だった。
しかし、マアサはそんなこと気にしないといわんばかりに話を続ける。
「さぁ? お好きに解釈してくださいまし」
「それじゃ、そうさせてもらうわ。で? さっきの答えは?」
「まぁ簡単な話ですの。勇者の虚偽報告と次代魔王召喚は、目的が達せられなかった時の保険。単純にそのカードを切る必要がなかったから放棄したまでですの。まぁ観測者がらみのことは、私の口からお話しするわけにはいきませんの」
得意げに話すマアサを見て、マリーは小さくため息をついた。
「そう。まぁそうでしょうね……相変わらず保険を掛けるのが大好きなのね」
「えぇ。この程度の保険、かけなければもしもの時に損ですの。もっとも、密約が成立しなかった時の保険は他にもいろいろかけてたんですけど……さっきも言ったとおり、密約の内容に関する意図はあまり触れないでほしいですの」
「わかったわ。それと、そろそろ集中して読書をしたいから黙って頂戴」
そういうと、マリーは再び本に視線を落とす。
そうなると、やることがなくなったマアサは、椅子から立ち上がり、瞬間移動で姿を消した。
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