第百一話 館長の依頼
大図書館の奥には、大量の本が積まれた書斎があり、本に埋もれるような形で一人の少女が座っていた。
「ようこそ初めまして、私はこの図書館の館長をしていますマリーです。以後お見知りおきを……あなたは……どう見ても勇者って感じじゃないわね。そんなことは気にしないけれど」
マリーと名乗った少女は、読んでいた本をぱたんと閉じると、誠哉の目をまっすぐと見据えた。
「それにしても、きれいな瞳ね……その吸い込まれそうな真っ黒な瞳。思わずほしくなっちゃうわね」
「ほしいって……」
少女からは見た目とは不似合いな妖しげな雰囲気が醸し出されていた。
「あら、自分で気づけないの? あなたの目はとても魅力的よ……っと話が脱線したわね。ちょっと、頼みたいことがあるの。お願いできるかしら?」
「内容次第ってところでいいか?」
「えぇ。あなたが納得できるような条件を提示してあげるわ」
そういうと、マリーは積まれていた本を一冊引き抜き、それを開く。
「へーなるほど……面白い経歴ね……」
「面倒だけどさ……聞いてもいい?」
誠哉の問いかけに対して、マリーはそっけない答えを返す。
「面倒なら結構よ」
マリーは本に目を落としたままで誠哉の方を見ていない。
「いやさ、その……それにボクのこと書いてあるの?」
「これ? そうね。自分が望んだニンゲンの必要な情報を提供してくれる素晴らしい本よ」
今、マリー館長はさらっととんでもないことを言っていた気がする。
それはさておいて、とにかく広い図書館だ。
彼女が本を使って何かを考え込んでいるため、周りを改めて見回すが、とんでもない蔵書量だ。
入り口から奥まで行く速度は車に乗っているぐらいの体感だったのだが、それでも10分はかかっている。
下手したら王宮そのものよりも大きいのではないかと思うほど広い場所をどうやって確保したのかという疑問が当然ながら発生していた。
「優秀な司書が居てね。その子が、空間をどんどんと拡張させているのよ。もちろん、新しい本を入れるためだけど」
「面倒だけど心でも読んでるの?」
「いえ、あなたの様子から判断したのよ」
マリーはしれっとそんなことを言って、手元の本のページをめくる。
「本当に?」
「本当よ。長く生きてるとそのぐらいの推測簡単にできるようになるわ。それよりも依頼の話だけど……」
彼女がパチンと指を鳴らすと、机の上に羊皮紙と羽ペンが出現する。
ここまで、なんとなく思っていたが、彼女はおそらく魔女なのだろう。
「……まぁいいわ。まず、やってほしいことは二つ。ある人物について調査してほしいの。まずは、生い立ち。そして、現在どこにいるのか……もちろん、あなたがそういったことを探っているというのは極力わからないように心掛けるわ」
「誰のことを調べるの?」
「せっかちね。やっぱり、これだからニンゲンっていうのは短命なのかしら?」
マリーはあきれたようにため息をついて羽ペンを手に持った。
「たぶん、関係ないと思うよ。付け足すと、面倒なことにボクの方が気が長いと思うよ」
「そう? 私、普段はここから動かないし、司書の子以外に会うなんて滅多にないから」
「そりゃ司書だったら、ある程度館長に合わせるだろ……」
誠哉は思わずため息をついた。
ユキはというと、いつの間にか近くを通りかかった司書と仲良くなり、本を片手におしゃべりに夢中になっているようだ。
「報酬はこの図書館を利用する権利でどう? もちろん問題を起こさない限り永久よ」
「なるほど……」
「そして、対象はこの子」
マリーは机の引き出しから、小さな鏡を取り出してそれを誠哉に見せる。
しばらくすると、そこに銀髪の少女の姿が映しだされた。
「これは?」
「この子は、先代勇者にして、現在の近衛兵隊長のセリア。今、完全に行方をくらませてるわ」
マリーの言葉は、誠哉の中で少なからず衝撃を与えるものだった。




