第百話 幽霊騒動(後編)
茂みの中から出てきた少女は、キッと誠哉を睨み付けていた。
誠哉は、いかにもめんどくさいといった様子で頭をかいてから、少女に話しかける。
「それで? 君は誰なの?」
「私か? 私は、紫川柴。あなたと同じ日本人よ」
「ご丁寧にどうも、ボクは沖村誠也。面倒だけど、君はこの幽霊騒動と関係あるってことで間違いないの?」
誠哉の問いに対し、少女は答えない。
「無言は肯定ととっていいのかな?」
「えぇ。それでいいわ」
柴と名乗った少女は、そのまま背を向けてこの場から離れようとしていた。
誠哉は、その肩をつかみ彼女の行動を阻止する。
「何のつもり?」
「それは、こっちのセリフだ。どういうつもりだ? 面倒だけど、事情も聞かずにはい。わかりました。なんておとなしく引き下がるわけにもいかないんだよね」
柴は、怪訝そうにこちらを見ている。
しかし、彼女がこの幽霊騒動の犯人である以上、事情を聴かないわけにはいかないのだ。そうでなければ、わざわざバルコニーから魔法まで使って飛び降りた意味がなくなってしまう。
「何をしようと私の勝手だ。大体、お前になど用はない。私が用があるのは、上のバルコニーにいる勇者だけだ」
「そんなことだろうと思ったよ」
「えっ?」
誠哉の言葉を聞いた少女の表情が固まった。
意外と、感情が表に出やすいタイプなのかもしれない。
「そもそも、ボクが事前調査として行った聞き込みの内容と、今回の幽霊騒動は少し勝手が違ったからね。もしかしたら、勇者であるアンナに対して何かしらのメッセージを発信しようとしているのではないかという結論に至るわけだよ。まぁその内容ってのはまんま助けてほしいってことだろう?」
「えぇ……さすが、勇者と一緒に行動しているだけはあるな。そこまで読まれていたなんとは……」
柴は、あきらめきった様子で肩の力を抜く。
それを見て、逃亡の意志がないと判断した誠哉は柴の肩から手を放した。
「ついてきてください。別段、勇者じゃなきゃダメっていうお願いでもないからな。それに、なんとなくだが、セイヤの方が勇者よりも実力が上だも感じ取れる」
そういうと、柴はバルコニーに背を向ける形で歩き出す。
誠哉たちは、それについて歩いて行った。
*
案内されてたどり着いたのは、王宮の中で一番大きいのではないかと思わせるほど重厚な扉の前だった。
柴は、その前で立ち止まるとこちらを振り向いた。
「この扉の向こうは、王宮図書館です。この先に依頼人がいます。それと、今回は特別に入れますが、それ以降は館長……つまりは、依頼人次第となりますのでご了承ください。それでは、私はここで失礼します」
それだけ言うと、彼女は一礼して消えてしまった。
立ち去ったとかではなく、文字通り消えてしまったのだ。
「一瞬でいなくなっちゃった……」
「これはこれですごいな……」
それにしても、彼女の行動よりも依頼主の意図とやらが非常に気になった。
なぜ、正式に依頼せずにこんな騒動を起こしたのだろうか?
誠哉は、軽く深呼吸をしてからドアノブに手をかけた。
「あなたが柴が言っていた子かしら? それとも、図書館利用の別の子かしら?」
その途端、中から女性の声が聞こえてきた。
その声は、まさにバルコニーで助けを求めていた声であった。
「バルコニーで声を聴いて、柴さんに案内してもらってきました」
誠哉が答えると、重厚な扉がギギーと大きな音を立ててゆっくりと開く。
「どうぞ、そんなところで立ち止まっていないで入りなさい」
その声が聞こえた途端、急に体が前に引っ張られるような感覚がした。
ふっと力を抜いた瞬間、その力に従う形で一気に図書館の奥に向けて飛び始めた。
「わっわっ何! なんなの!」
突然の出来事にユキは驚くばかりであった。
それに対して、誠哉はいたって冷静だ。
「セイヤお兄さま!」
「大丈夫だよ。別に敵意があるわけでもなさそうだし……」
言い終わる頃には、図書館の最奥部に到着しようとしていた。




