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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第七章 王宮にて
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第九十九話 幽霊騒動(前編)

 アンナの話を聞いた次の日、誠哉が起きると同時にアンナが勢いよく扉を開けて入ってきた。


「おはよう……面倒だろうけど、ノックぐらいしたら?」

「それどころじゃないって! 出たのよ!」

「出たって?」


 誠哉は眠そうに目をこする。


「幽霊よ! 幽霊!」

「はぁ?」


 アンナは何を言い出すのかと耳を疑ってしまった。


 この世界に来てから、ある程度、自分の常識に当てはまらないことがあるということは理解していたが、直接見ていないということもあって、にわかには信じられなかった。


「信じてよ! あの夜、誠哉たちが先に部屋に戻ったでしょ? その後、助けて、助けてって女の人の声が聞こえてきて、物凄い寒気がしたのよ。あとで聞いたら、あの周辺にいたのは私たちだけだったみたいで……あの声が、誠哉たちのいたずらじゃなかったら幽霊が出たってことじゃない!」

「まぁ確かにそんないたずらしてないけど……ボクたちはそんな声聞いてないよ」

「だったら、私が聞いたのは幽霊の声だったのね。ということで、今夜また、あのバルコニーに行ってみましょう」


 何を思ったのか、アンナがものすごい剣幕で迫ってきたので、誠哉たちは考える間もなくうなづいた。


「それじゃ、昨日と同じ時間にバルコニーね」

「はい」


 もう今日で王宮を出るはずが、突拍子もない理由での滞在延長だ。


 誠哉は、ユキの頭をなでながら深く長いため息をついた。




 *




 舞踏会に食事会、謁見など一通りの行事を終えていたため、割と暇な一日を過ごした二人は昨日と同じぐらいの時間にバルコニーへとやってきた。

 ちなみにその空き時間を使って、王宮内の人々に聞き込みをしたところ、アンナが旅立って行った少しあとぐらいからそういった現象が確認されているらしい。


 アンナからの連絡がないことも相まって、彼女が死んでしまい恨み言を言い続けているのではないかという噂までたったのだという。


 ちゃんと連絡とかしようよ……


 などと、内心アンナに毒づきつつ、誠哉はバルコニーへと向かったのである。


「遅い!」


 バルコニーへ出る扉を開けると、仁王立ちしているアンナの姿が視線に入ってきた。


「無茶言うな。面倒なことにここまでのルートが複雑だから少し迷った」


 王宮の中でもこのあたりは、特別複雑なつくりになっていた。

 理由は分からないが、この場所には何かあるということを暗示している気もした。


「それで? 幽霊ってやつは出たの?」

「まだよ。まぁ少し話でもしながら待ってましょう」


 そこからは、いつも通りの他愛のない話が始まる。

 そうして、昨日誠哉たちが帰ったぐらいの時間になった時である。


「助けて……助けて……」


 どこぞより、女性のか細い声が聞こえてきたのだ。


「誰だ!」


 誠哉が振り向くと、そこにはぼやーとした白い影があった。


「幽霊だ!」

「あれが幽霊なの?」


 それを見たアンナとユキの反応は全く違った。

 白い影を指差して少し興奮しているアンナに対し、ユキは誠哉の方を見て首をかしげていた。


「そうだな……たぶん、あれが幽霊でいいと思うよ」


 その影は、助けて、助けてと言いながらこちらに近づいてくる。


「どうする?」

「どうするも何も……面倒だから逃げる!」


 誠哉は、ユキの手をつかんでバルコニーから飛び降りる。

 4階にあるバルコニーなので、地面までそれなりに距離があるが、誠哉は落ち着いて魔法を発動させて、緩やかに着地した。


「セイヤお兄さま。大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。何の考えもなしに飛び降りたわけじゃないし……たぶん、これで解決できそうだしね……」


 そう言いながら、誠哉はバルコニーのすぐ下の位置にある茂みを見た。


「出来てたらどう? 幽霊さん」


 誠哉が声をかけると、その少しあとにガサガサという音がして茂みから銀髪の少女が姿を現した。

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