第九話 勇者と魔王
チチチッと鳥がさえずっている中、アンナとアリスが目を覚ました。
アリスは、また来たのかと言わんばかりにため息をつき、アンナは目をぱちくりさせている。
「あなた……誰?」
「私ですか? 私はこのあたり一帯を治めております伯爵家の次男であるお兄様の妹ですわ。あなたは今、何かと噂になっている勇者様でしょうか?」
「はい……そうですど。ただ、彼は異世界人だと聞いていたので妹がいるというのにちょっと驚いたといいますか……」
アンナはどこかおっかなびっくりと言った様子で話している。
それはそうだろう。結界の中で寝ていたのに朝、起きたら見知らぬ幼女がいたのだから。
「えぇお兄様は当家の養子なんですの。ただ、年は私の方が幼いのでお兄様とお呼びしているだけですわ」
「へぇ……そうなんですか……」
「敬語とかは結構ですわ。普通にお話いたしません?」
「えっと……はい。じゃぁそうしようかな」
マアサは、本当にどこかの貴族であるかのような口調と雰囲気を醸し出している。
対するアンナもちゃんと敬語が使えるようだ。
二人が穏やかに出会い、話しているのはまぁ良しとしよう。
ただ……
「いい加減両腕から離れてくれないと面倒なことに起きられないんだが……」
二人が寝ていたときの体勢から動いていないという大きな問題が発生していた。
「お兄様に置かれましては私が邪魔だということですか?」
「あのな……」
「別に……その……この方が落ち着くだけであって、変な意味はないからその……もうちょっとだけこのまま……」
「主! 服の中に私がいるって忘れないで下さい!」
「おい!」
だんだんと収拾がつかなくなってきた。
寝る場所なんてどうでもいいから早く起きたいのだが、どうすれば彼女たちはどいてくれるのだろうか。
「面倒なことにどこかのだれかが食料を食べつくしてくれたおかげで調達しにいかないといけないから、早くどいてくれないか?」
これならどいてくれるかもしれない。
見たところ大食漢の勇者なら、これはかなり効くのではないだろうか。
「そうそう。かつてこの町にいた魔王を北の荒野に追いやったのは他でもないお兄様ですのよ」
「そうなの? 町の人たちに一歩遅かったなんて言われて何のこっちゃって困ったけれど、魔王を追いやったのはすごいわね」
「でしょう? 異世界人の中でも特に魔力が強いお方ですので魔道書を読んだだけでいろいろな魔法を使えるんですのよ」
「すごいわね」
二人にはまったく効果がなかった。というよりも二人そろって話を聞いていなかった。
なんだか、魔王がウソの情報をつかませて勇者を遠くに行かせようとしているのは気のせいであろうか?
「ちょっと、ごめんなさい」
アンナが突然、立ち上がってどこかへ行ってしまった。
すると、マアサがグイッと誠哉の耳元に顔を近づけてひそひそとした声で話しかけた。
「お兄様。話を合わせてくださいまし」
満面の笑みが浮かべていたマアサがいつの間にかあくどい魔王の顔になっていた。
おそらく、うまく誠哉が話を聞かないところを見て、何かしらの魔法でアンナを一時的に退席させたのだろう。
「面倒だな……わかったよ。ボクが魔王を追いやったでいいんだよね?」
「えぇ」
「主に嘘をつかせるなんて!」
「妖精は黙ってなさい」
そうしている間にアンナが戻り、再び談笑が始まった。
どうやら、彼女には勇者にウソの情報を与えて混乱させるという目的もあったようだ。
勇者と正々堂々と戦うつもりは皆無ということなのだろうか。
「まったく……どうしたもんだか」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
一瞬、話を合わせろといったときのあくどい顔はどこへ行ったのか、今は良家のお嬢様になっているマアサは、ニコニコとしながら誠哉の武勇伝(でっちあげ)を語っている。
内容は、意外とリアルティのあるものだったため、アンナはかなり興味深い様子で聞き入っている。
「そこでお兄様の魔法が見事に当たり、魔王は敗走! あれは見事なものでしたわ!」
「へーいくら偶然の重なりとはいえ、魔王が逃げ出すとは……ますます仲間にしたいところね」
「そんなことはいいから、面倒なことになる前にどいてくれー!」
誠哉としては、現状を打破することが先決であった。




