後日談・所在と太陽
「……出来れば誰かに、ちゃんと怒られたかったんだけど、なぁ……」
ホテル〈ブルー・スカイ〉、所在の自室。
七年間、主がいなかったとは思えないほど、整えられた部屋だった。
埃ひとつないベッドの縁に腰掛ける。
「怒られてたじゃない。みんなに」
隣に並んだ太陽が、くすりと笑う。
「うーん……あれは、なんというか……」
苦笑して、言葉を濁す。
怒り、というより。
叩きつけられたのはーーずっと積もっていた〈想い〉の方だった気がする。
父、源海には、生まれて初めて殴られた。
容赦のない言葉と、妻太陽への謝罪を何度も聞かされながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
長兄の縁には、にこにことしたまま四時間の正座。
家長とは何かを、静かに、逃げ場なく教え込まれた。
次兄の彼方には、拳骨をひとつ。
そのあと、短くーー「大事にしてやれ」とだけ。
姉の此方は、電話越しに朗らかに笑った。
「良かったね」と。
それから、「戻ったら、ちゃんと全部聞かせなさいね」とも。
七年も、いなかったのに。
まるで昨日の続きみたいに、誰もが向き合ってくる。
ーー逃げ場なんて、最初からなかったのかもしれない。
子どもたちも、同じだった。
長女の陸には、にこやかなまま正座で対面される。
笑っているのに、怖い。
謝れば、「よろしい」とだけ、きっぱり言われる。
次女の海には、順番に名前を挙げられて殴られた。
痛くはないのに、妙に効いた。
それよりも「オヤジは、もうメシは作んな」が地味に刺さる。……なんで。
三女の空には、壊れそうなほど、泣かれた。
どうしていいかわからなくて、ただ狼狽えるしかなかった。
四女の渚は、「おかえりなさい」とだけ言って、部屋に戻った。
静かすぎて、逆に距離を測りかねる。
けれど太陽は「中身は変わってないわよ」と、あっさり笑った。
そしてーー末っ子の汐。
あの子は、ずっと微笑んでいた。
責めるでもなく。
泣くでもなく。
ただ、受け入れるように。
……一番、背負わせてしまったはずなのに。
「……敵わない、なぁ……」
ぽつりと、こぼれる。
隣にいる太陽も、きっと同じだ。
一番、傷ついて。
一番、待っていて。
それでもーー何も言わず、ここにいる。
「太陽さん」
そっと、手を伸ばす。
「僕の大切な人がーー太陽さんで、良かった」
一瞬、目を丸くしてから。
彼女はやわらかく笑った。
「私もよ、所在くん」
重なった影が、ひとつになった。
まさかの400話は
夫婦の話でした〜




