12/31 終いじゃ
「……ほんにそれが、お主の望みかえ?」
栗色の瞳が、細く弧を描き。汐を見る。
「最初から、欲しかったのは。汐の身体でしょ?」
それをじっ、と見返して汐は、自分から一歩、神様に近付いた。
「あの日ーー、お父さんが、いなくなった日。あの日本当は、いなくなるのは……、汐のはずだった」
ふわり、栗色の髪が揺れ、夜輝石の小瓶から、光が溢れる。
「何故にそう思う?」
「だって」
汐は、苦笑する。
「汐は、まだ三歳だったんだよ?
自我が曖昧で、形も不安定で——」
神様を見上げて、微笑む。
「お姉ちゃんが〈入る〉には、一番ちょうどいい状態だった」
もう一歩、近付く。
「でも、そうしなかった」
そして。
まっすぐに、神様を見据えて。
「お姉ちゃんは、〈完全に自分のものになる器〉が欲しかったんだよね」
手を、伸ばす。
「混ざるんじゃなくて。奪うんでもなくて。ーー最初から〈自分として存在できる身体〉が」
見下げる栗色の瞳が、すぅと細められる。
「だから」
ふわっと笑う。
「汐にいま、自我があること自体、邪魔なんだよね?」
「もうよい」
パチン、神様が扇を閉じた。
「聡いおさなごは嫌いじゃ。まぁ、さすが永遠の孫、といった所じゃが。……見抜かれた時点で、終いじゃの」
「おしまい?」
神様の言葉に、汐がきょとんとする。
「まんまと一杯食わされたわ。永遠め、こうなる事がわかっておったな」
苦虫を噛み潰したような表情をする神様に、今度は汐が首を傾げた。
「ばぁばがなに」
「ほぅれ。ーー迎えじゃ」
しかし。
汐の言葉を遮って、神様が閉じた扇で先を示した。




