12/31 僕を泣かせる義務がある
所在くん
「うしお……、汐。聞こえている?」
ただ、眠っている子どもに、語りかけるように。
所在は、そっと名を呼ぶ。
「君が行くのは、そっちじゃない。まだ」
腕の中の汐は、動かない。
目を閉じたまま、所在の胸に身を預けている。
「……今ここで逝かれたら」
言葉が、わずかに詰まる。
「僕が七年、〈彼女〉のそばにいた意味がなくなる。
君を逝かせないためにーー、そうならないために、捧げた七年なんだよ?」
ぽたり、と。
栗色の瞳から、雫が落ちた。
夜輝石の光が、わずかに強まる。
腕輪と小瓶が、静かに呼応していた。
「……なんの悲劇、なんだ」
小さく、吐き出す。
「やっと戻ってきたと思ったら。今度は、死ぬかもしれない状況?」
汐の頬を、落ちた涙が伝っていく。
「そんな終わり方、させない、から」
ふわりと舞う光の中で、所在は汐の肩をそっと引き寄せる。
「君は、これから身長が伸びて。学校に通って。いつの間にか大きくなって。
恋人なんか出来てーー、きっと僕を困らせるんだ」
かすかに、微笑む。
「僕は、僕は反対するよ? 間違いなくね。
でも最後はーー君のその顔に、きっと負ける」
声が、少しだけ震えた。
「幸せそうに笑う君を見て。……諦めるしか、なくなるんだ」
震える指先で、そっと頬に触れる。
「そうやって、ちゃんと生きて。ちゃんと幸せになって——」
一度、息を吸って。
「純白の結婚式で。君は、僕を盛大に泣かせるんだ」
静かに。
「それくらいの未来を、生きてからじゃなきゃーー」
ぐっと、汐を抱く腕に力を込めた。
「このまま終わるなんて……、許さない」
震える声で、それでもはっきりと。
「君にはーー僕を結婚式で泣かせるっていう、義務がある」
夜輝石の腕輪が、びしり、と音を立てた。
光が、強く溢れる。
「……これじゃ、〈約束〉が違う」
顔を上げる。
所在の髪が、汐の髪がふわりと揺れる。
「それでも、汐を連れて逝くというのならーー」




