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12/31 やだ




「っ!?」


 バチィ!

 一瞬の痛みが身体を駆け、咄嗟に飛び退くフィル。


 その間に、夜輝石の光が所在(ありか)(うしお)を包み込む。

 まるで、フィルと分断するかのように。


(セキ)!」


 叫びに、汐はゆっくりと振り返り。

 微かな笑みを浮かべた。


「ごめんね、フィル」


 それだけを残し、視線を戻す。

 所在へと、向き直る。


「ざっけんな!」


 踏み出そうとした、その瞬間。


「っ……?!」


 視界が、ぐにゃりと歪んだ。


 覚えのある感覚。

 ーー世界の均衡を崩した、その反動。


「……くっそ、今かよ……!」


 大丈夫との確信があったはずだが、どうやら見立てが甘かったらしい。

 四肢が、見えない鎖に絡め取られる。


「所在さん! 汐っ!!」


 叫びは、届かない。




「来るんじゃ、ない」

「やだ」

「本当に、これ以上は……もたない」

「――嫌!!」


 汐の声に、応えるように。

 夜輝石が、淡く震えた。


 汐の胸元の小瓶から。

 所在の腕輪から。

 フィルの耳のカフスから。


 ――それだけじゃない。


 太陽(ひかり)の指輪から。

 (むつみ)のバレッタから。

 (あみ)の調理道具から。

 空のぬいぐるみから。

 渚の工具から。


 キラキラ。

 キラキラ、キラキラ。


 離れているはずの光が、

 呼び合うように、空を漂い、集まってくる。


「……ほら」


 汐の栗色の髪が、光にたなびく。


「みんな、繋がってるよ」


 小さく息を吸って。


「お母さんも、お姉ちゃんも、フィルも、じーじたちも……他のみんなも」


 そして、ほんの少しだけ目を伏せる。


「――それに、汐も」


 所在へ、一歩近づく。

 膝を折ったままの所在が、ふるりと首を振る。


「だめだ……それ以上はーー」

「もう、時間がないの」


 もう一歩。

 もう。手が、届く距離。

 胸の小瓶から、光が溢れ出す。


「ずっと、待ってたの」


 震えは、もうない。


「これで終われるならーー」


 所在の瞳が、見開かれる。


「だからーー」


 その瞬間。

 汐の奥の何かが引き裂け。

 満ちていた光が、弾けた。






 ――かしゃん。

 微かな音。

 髪がばさりと広がった気配に、

 陸はふと、振り返る。


 床に転がるのは、

 真っ二つに割れた、夜輝石のバレッタ。


「……なに……?」


 拾い上げたそれは、

 まだ、かすかに温かかった。






「汐ーーーーっ!!」


 フィルの叫びが響く。

 質量が爆ぜ、

 光の粒が、世界に溶けていく。


 追いすがるように。


 がくりと膝を折った汐が、

 所在の胸へと倒れ込んだ。


「え……?」


 ふわふわの栗色が、夜に溶ける。

 所在は瞬きも忘れたまま、

 その重みを受け止める。


「いやああああぁっ!」


 駆け寄る太陽の悲鳴。

 その中で。


 腕の中の、小さな温もりがーー

 するりと、こぼれた。


 ぱさりと、砂が鳴る。


 落ちた手を、目で追って。

 所在は、かすれた声で呟いた。


「…………し、お…………?」

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