12/31 そういうもの
そこまでの道は。
フィルが何か、不思議な術を使っているのか、誰にも話しかけられる事なく、また気に止められる事もなく、たどり着けた。
海と森が繋がる、岩場の近く。
お父さん、と会った場所。
ふわり、と天に昇る光の筋が見えた。
「……やぁ」
栗色の髪を揺らす、男性がそこに立っていた。
「今日はフィルドも一緒なのか。本当に、不思議な子だね、君は」
「…………」
柔らかに。微笑むその顔は、何も変わらない筈なのにーー。
汐は、栗色を揺らすその顔を、僅かに俯かせた。
フィルは息を飲み、言葉を滑り落とす。
「……所在さん、本当に……、覚えて、ねぇのか……」
ぱちくり。汐と同じ栗色の瞳を瞬いて。
「所在さん、なんて。なんでそんな、他人行儀なのかな? フィルド。いつもみたいに、ザイって呼んでーー」
言いながら、所在のその顔が、驚きに見開かれていく。
「あれ、違う……、どうしてだろう、おかしいな? 〈七守護り〉は、〈継承者〉を」
一瞬、言葉を切る。だが、それはなんの慰めにもならなかった。
「名前では、呼ぶ事が出来ないはずなのにーー」
所在のその言葉に。
今度は汐が、息を飲んだ。
風が止まったような気がするのに。
波の音だけが、やけに遠い。
「……名前で、呼べない……?」
汐の声は、自分でも驚くほど、掠れていた。
所在は困ったように笑う。
「うん。だって、そういうものだろう? 〈七守護り〉は〈継承者〉を守る存在でーー」
そこでまた、言葉が曖昧にほどける。
まるで「そこから先」を、何かに削られているかのように。
何かを感じて。
フィルが、一歩踏み出す。
「……ダメだ、汐」
低く、はっきりとした声。
「それ以上は」
「……どうして?」
汐はフィルを見ない。
視線は、ただただ、目の前の男に縫い付けられている。
「だってーー」
喉が、焼けるように熱い。
目に涙が溜まる。
でも、言わなければ。
ひゅっ、と息を吸い込んだ。
「お父さん、なんだよ?」




