12/27 あんまりだ
こんな日くらい、休みが欲しいーー。
とは、確かに言っていたけれど。
こんなクリスマスプレゼントは、あんまりだと思う。
「……母さん、その。ーー大丈夫?」
「……陸……」
太陽の自室。薄暗いまま、ベッドの縁に腰掛ける太陽のその顔は、憔悴していた。みんなといる時は、勤めて明るく振る舞っているのだから、尚更だ。
柔らかに微笑む母親のその姿は、どこか儚げにみえた。
ようやく。
ようやく見つかった夫がーー
まさか。
記憶喪失だなんて、誰も思わない。
それも、全てを忘れている訳ではなく。
何故か。
太陽たち、家族の記憶だけが、ない。
そこだけまるで。
何処かに、置き忘れてきてしまったとでもいうように。
「…………」
陸は、部屋に転がる酒瓶を無言でビニール袋に入れた。
お酒は嗜む程度の母だが、こんな時、お酒でも飲んでないと、やってられないんだろう。
陸とて、何もしていないと、ともすれば叫び出してしまいそうで。
秘書試験の問題集を制覇し、自室を掃除するだけでは飽き足らず、様子を見るとの名目もあったが、母親の部屋を掃除しに来たのだった。
所在が見つかった事は、まだ、誰にも話していない。
太陽と、陸と、汐と、フィルしか、知らない。渚には、間違いだったと説き伏せておいた。
幸い(?)所在はうろや旅館に滞在しているようで、他の家族や友人に、いきなりバレる、なんて危険はなさそうで。
そこだけが、少しの、安心材料だった。
「母さん、無理だけはしないで」
「……ええ、陸も、ね……」
出たゴミを片すため、母親の自室を後にする。
「アプリがいれば、なんとかなったのかしら……」
つい、溢す。フィルほど接点がある訳ではないが、確かあの子は薬師だったハズ。
昨日、まだやっていたうろなからは遠い病院で診てもらったが、「時間が解決するでしょう」という、当たり障りのない対応だった。
知り合いに医療関係者もいたが、出来るだけ身内に、迷惑になるような事はしたくなかった。ふぅ、と息を吐く。
「……どうしたらいいのかしら……」
壁に背を預け、空を見上げる。
どうして。
母さんばかり、こんな辛い目に。
合わなければならないのだろうーー。
ただ、幸せに。
家庭を築く事は。
そんなに難しい事なのだろうか。
いつの間にか。
陸のその瞳から、ポロリと雫が溢れ落ちた。
「……汐、おまえ、大丈夫か……?」
「…………」
顔を枕に埋めたまま。
こくり、とだけ。
頷いておく。
でも。
手だけは離さずに、ベッドの側、椅子に座っているフィルの手を、握る。
「…………より…………」
「ん?」
「……うしお、より。きっと……、おかあさんの方が…………つらい、もん……」
フィルの手を握る、その手に力が入る。
栗色の瞳から、ポロポロ涙が溢れる。
昨夜、あんなに泣いたのに。
止められなかった。
近付かせちゃ、ダメだったのに。
わかってたのに。
悲しむと、わかっていたのに。
でも。
でも、ずっと。
会いたい
抱きしめたい
触れて確かめたい
そうーー
想っていたのを知っている。
どれだけ、再び会える日を
待ち望んでいたか。
知っている。
だから。
「……っ……」
髪を撫でる。
フィルの手がーー優しい。
優しい、から。
だから、涙が止まらないんだと。
汐は思うことにした。
握った手を、離さないまま。
「……これは一体、何の意図があるのか、なぁ……」
うろや旅館。借りている部屋で。
海を眺めながら、所在はポツリと呟いた。
薄暗がりの中。
汐と。
フィルと。
所在の持つ夜輝石が。
仄かに光を宿していた。




