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12/25 所在くん!




「太陽さん!?」

「フィル!」


 前を走る太陽(ひかり)を見つけて声を上げたフィルに、太陽はわかっていたように声をかけた。


「やっぱり、何があったのね?」

「悪りぃ、止めれなかった! けど、危険な感じじゃねぇんだ、よな。……ただ」

「ただ?」


 二人に追い付いた(むつみ)が、後から促す。


「ホテルからずっと走ってきてんだがーー。(セキ)に全く追いつけねぇ」

「!?」

「どういう事なの!?」


 それはあり得ない事だった。

 (うしお)は、〈キラキラ〉を見ることが出来て、たまに狙われたりもするような子供ではあるが、いたって普通の10歳の女の子だ。

 フィルのように、見た目が子供なだけで、鳥を操ったり、戦闘能力に長けていたり、妙な力を使ったりするような、不思議な大人ではない。

 ましてや、太陽や陸のような大人に敵うような脚力がある訳でもない。

 毎年海の家を家族でやっている為、普通の人よりは砂浜での動きに、耐性があるかもしれないが。

 眉根を寄せるフィル。


「なンか、妨害でもされてんのか……?」

「ちょっとフィル? それって大丈夫なんでしょうね!?」

「ま、まぁまぁ母さん」


 走りながら喚く太陽を陸が宥める。

 ふと、フィルが足を止めた。

 それに習って、太陽も陸も立ち止まる。


「フィル?」


 二人が怪訝そうにフィルを見返す中。

 フィルの耳にある、夜輝石のカフスが仄かに光り。

 前方で突如、眩い光が、一つ弾けた。






「ーーーー」


 汐が呟いた声は。

 波音にかき消され、汐自身にも、目の前のその人に届いたのか、わからなかった。

 暗がりの中、やんわりと向けられている栗色の瞳。何かに気付いたように、瞬かれ。


「ーー所在(アリカ)くん!!」

「「!?」」


 いきなり、耳に声が滑り込んできた。

 驚いて、後ろを振り返る汐。


「…………だ…………っ」


 その視線を遮ってーー

 走ってきたままの勢いで、太陽がその人の胸に飛び込んだ。

 バランスを崩し、尻餅をつく。


「所在くん、アリカくん、ありかくんっ!!」


 うわああああぁっ!

 太陽の泣き声が、周囲を満たす。


「……うそ……」


 遅れてやってきた陸が、目を見開いて口元を覆う。


「……マジかよ……」


 フィルも、その蒼瞳を見開いた。

 太陽の泣き声が響く中。

 誰も。

 何も。

 動けなかった。






「……うぅ……っ」

「落ち着いた?」


 鼻をすすりながら。背中を、優しく撫でるその手付きに安心しながら。

 太陽は指で目元を拭った。


「ごめん、なさい。子供たちの前で……」


 恥ずかしいわね、と苦笑する太陽に。


「悲しい事があったら。誰だって涙くらい流すものだよ。恥ずかしがることじゃない」


 にっこりと、太陽に所在と呼ばれた男はそう言って。

 太陽がそそくさと立ち上がって、手をこちらに差し出してきたのを、不思議そうに見ながら、呟く。


「そういえば、僕の名前は確かに所在なんだけれどーー、どうして君は、僕の名前を知っていたのかな?」

「へ? やだ、何言ってるの、所在くん」


 聞き間違いかと思って、太陽が苦笑しながら聞き返すも、ニコリとしたまま首を傾げて。


「ーー君たち、誰?」




 陸とフィルが、汐を振り返る。

 汐は俯いたまま。

 スカートの裾を握りしめ。

 ふるふると首を振った。

 夜の闇に、汐の目から溢れた涙が、散って溶けた。




「………………え?」

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