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12/25 やっぱり




「……うそだろ?」


 走り去る汐の、その背中をぽかんとしたまま見送って。

 はっとして鳥笛を鳴らし豆鳥に汐を追随させると、そのままズルズルとしゃがみ込む。

 呟いたものの、それが嘘ではない事が。

 わかってしまう。


 ずっと。

 小さな頃から。

 見てきたのだ。

 汐のことを。


 すりっ、と。肩に留まっているルドが、頭を擦り付けてくる。

 

「とりあえず、知らせんのは後だ、な。ーー追わねぇと」


 フィルは白髪頭をガリガリと搔いてから、一つ息を吐いて。汐の後を追うため、駆け出した。






「こんな日くらい、たまには休みが欲しいわぁ〜」

「飲食関係じゃ、どう考えても無理よ、母さん。ーー稼ぎ時なのよ?」


 運転しながらメガネをきらりと輝かせる(むつみ)に、あはは冗談よ、と太陽(ひかり)は笑って。助手席からふと外の景色を眺めてーー。


「……汐?」


 驚きに、その黒目を瞬いた。

 浜辺を、汐が一人で走っている。フィルも連れずに。


「母さん? どうかした?」


 見間違いだと信じたいが、あの栗色のふわふわの髪。間違えるわけがない。

 反対方向に流れていく景色の中、汐の後を追うようにして、白い豆鳥が飛んでいくのを目に捉えて。


「止めて!」

「!」


 太陽が叫んだ。

 いきなり叫んだ母親に驚きながらも、ハザードをたいて、路肩に車を停車させる陸。

 車が停止したと見るや、慌てて飛び出した太陽に、陸も慌てて声を投げる。


「母さん!? 一体どうしーー」

「もしかしたら汐に、何があったかもしれないのよ!」

「えぇ?!」


 一心不乱に浜へとかけていく太陽を、ぱちくりと目を瞬いて見やり。戸締りをしっかり確認し、三角停止板を立ててから、陸もその後を追うべく走り出した。






「……っ」


 ぎゅっと、スカートの裾を掴む。

 「どうして同じ見た目をしているのか」。

 それは、至極簡単な問いなのに。

 答えられないものじゃないのに。

 汐の栗色の瞳から、涙が溢れた。


 やっぱり。

 そうなんだ。


「僕の、母さんしかいないはずなんだけど、なぁ」


 そんな。

 わかりきった事を、

 聞いてくるのはーー。


 そろり、目の前の人を見上げる。

 柔らかに微笑む、その表情。

 栗色の髪に、目。

 アルバムで、何度も何度も、見た人なのに。


「…………」


 言わなきゃいけない。

 ちゃんと、聞かなければ。

 それなのに。

 それなのに、言葉が出てこないーー。

 口を閉じたり開いたりを繰り返しているうちに。

 目の前のその人が、もう一つ言葉を落としてきた。


「君は一体、何者なのかな?」


 汐の視界が、揺らいだ気がした。


 ああ。

 本当に。

 わからないんだ。


 自分の足場が、ガラガラと崩れていくのを感じながら。

 汐は小さな手を握りしめ、その人をぐっと見上げてーー。

 息を継いだ。

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