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週末限定、異世界ソロキャンプ! ~残業疲れのOLが現代のキャンプギアとスーパーの食材でまったり飯テロ極めます~  作者: RIU


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第43話:ドタバタ異世界クッキング

千秋(ちあき)の張ったランタンの結界からわずかに離れた、夜の森の広場。

そこでは今、異世界ファルマ大陸の住人たちによる、千秋を元気付けるための極秘ミッション『異世界流バーベキュー作戦』が、ドタバタと、そして非常にワイルドな形で進行していた。


「よし、肉の準備はできたぜ! 見ろよこの大角鳥(だいかくちょう)の極太の脚肉を! こいつを豪快に焼いて、チアキの腹に詰め込んでやるんだ!」


槍使いのジンツが、先ほど自慢の腕前で仕留めてきた巨大な鳥の肉塊をドンと丸太の上に置いた。

人間の太ももよりも太い、赤身と適度な脂身が混ざり合った、見るからに弾力のありそうな極上の肉である。本来なら、筋を切り、適度な大きさに切り分けてから焼くのがセオリーなのだろうが、彼らには千秋が持っているような鋭いアウトドアナイフも、便利なまな板もない。


「しかしジンツよ。この巨大な肉塊、どうやって火にかけるのだ? 千秋殿が持っているような『あみ』や『てっぱん』など、我々は持ち合わせていないぞ」


重戦士のバルガスが、太い腕を組みながら現実的な問題を指摘した。

千秋がバーベキューをする時、彼女は必ず金属製の網や分厚い鉄板(マルチグリドル)を使っていた。それがあれば、肉を均等に、焦がすことなく焼くことができる。しかし、異世界組の彼らの手元にあるのは、それぞれの武器と、村や酒場から持ってきた最低限の道具だけだった。


「ふっ、案ずるなバルガス。バーベキューの基本は『肉を火で炙る』ことだとジンツも言っていただろう。網や鉄板がなければ、直接火にかざせばいいだけのことだ」


そう言って前に進み出たのは、生真面目な女騎士・リネットだった。

彼女は腰の鞘から、日頃の過酷な鍛錬と魔獣討伐で鍛え上げられ、研ぎ澄まされた愛用の『騎士剣(ロングソード)』をシャランと引き抜いた。

そして、その白銀に輝く刀身を、容赦なく巨大な肉塊の真ん中へと突き立てたのだ!


――ズブゥゥゥゥッ!!


「な、なにぃぃぃっ!?」

「リネット! お前、騎士の誇りである自慢の剣を、肉の串焼きに使う気か!?」


ジンツとバルガスが驚愕の声を上げた。

リネットの剣は、王都の優れた鍛冶師によって打たれた名剣であり、並の魔獣の装甲など容易く切り裂く業物(わざもの)である。それを、あろうことか『巨大なバーベキュー串』として代用したのだ。


「騎士の誇りなど、チアキの笑顔を取り戻すことに比べれば些末な問題だ。それに、この剣の長さと強靭さならば、この巨大な肉塊を貫いて火にかざすのに最適だろう」


リネットは至極真面目な顔でそう言い放つと、巨大な大角鳥の肉が突き刺さった剣の柄を両手でしっかりと握り、満足げに頷いた。


「おおおっ……! さすがリネット殿! その覚悟、我々も見習わねばならんな!」

「よっしゃ、串の準備は完了だ! 次は『火』だな! サリサ、出番だぜ!」


ジンツに呼ばれ、魔法使いの少女サリサが「は、はいですぅ!」と慌てて前に出た。

彼女の目の前には、バルガスが怪力で叩き割った倒木の薪が、千秋の真似をして井桁(いがた)状に高く組み上げられている。


「チアキ殿はいつも、あの『ふぁいやーすたーたー』という魔法の棒で、火花を散らして一瞬で火をつけていました。私も、魔法使いの誇りにかけて、チアキ殿のような美しい火を熾(おこ)してみせますぅ!」


サリサは両手で杖を強く握り締め、目を閉じてマナの集中を始めた。

彼女は本来、火魔法を得意とする魔法使いなのだが、千秋の使う『現代ギア』の圧倒的な利便性と着火の早さに自信を喪失し、最近はもっぱら「洗い物係」として甘んじていた。

しかし今日だけは、千秋に温かいご飯を振る舞うため、絶対に失敗は許されない。


「精霊よ……。古き契約に基づき、この薪に命の炎を宿したまえ……! 『ファイヤーボール』ですぅぅぅっ!!」


サリサが杖を振り下ろした瞬間。

杖の先端から、彼女の気合いと千秋への感謝の念が過剰に込められた、彼女の身長ほどもある巨大な灼熱の火球が射出された。


――ドゴォォォォォォォォォッ!!!!


「うわああああっ!?」

「あぶねえっ!!」


火球が薪の山に直撃した瞬間、凄まじい爆発音と共に、森の暗闇を吹き飛ばすほどの巨大な火柱が天高く舞い上がった。

火力が強すぎる。

千秋がいつも慎重に風を送りながら育てているような、料理に最適なチロチロとした『熾火(おきび)』とは対極にある、すべてを灰燼に帰すかのような暴力的な爆炎である。


「ゲホッ、ゴホッ! サリサ! やりすぎだ! 火がデカすぎて肉が焼ける前に俺たちが黒焦げになっちまうぞ!!」

「ひゃああっ! ご、ごめんなさいですぅ! チアキ殿を元気付けなきゃって思ったら、つい魔力を込めすぎちゃって……!」


サリサが泣きそうになりながら謝る。

しかし、強火はバーベキューの醍醐味でもある。ジンツは「まあいい! 火力がねえよりはマシだ!」と叫び、リネットに合図を送った。


「リネット! その肉の串焼きを火に突っ込め! 表面を一気に焼き固めるんだ!」

「承知した! ふんっ!!」


リネットは名剣に突き刺さった巨大な大角鳥の肉を、燃え盛る爆炎の中へと豪快に突き出した。

ジュウウウウウウウウッ!!という凄まじい音と共に、肉の表面から大量の脂が滴り落ち、それが炎に触れることでさらに火柱が大きく立ち上がる。

千秋のように、火加減を調整したり、遠火で中までじっくり火を通したりという繊細な技術は彼らにはない。ただひたすらに、圧倒的な火力で肉の塊を炙り続けるという、極めて原始的でワイルドな調理法だった。


「おらおらおらっ! アタシも持ってきた野菜を突っ込むよ!」


酒場の女将ミレーヌが、大きな木箱からゴツゴツとした不格好な野菜を取り出した。

大根によく似た白い根菜や、皮の分厚い芋、そして緑色の硬そうな葉野菜。千秋がスーパーで買ってくるような、綺麗に形が揃えられ、あらかじめカットされた野菜ではない。泥がついていて、形もいびつな、いかにも『異世界の村の野菜』といった風情のものばかりだ。

ミレーヌはそれらを包丁で切ることもせず、土を軽く払っただけで、そのままドカドカと燃え盛る炎の脇――少し火の勢いが弱い部分へと無造作に放り込んでいった。


「女将! 切らなくていいのか!?」

「いいんだよ! チアキちゃんが前に教えてくれただろ? 『野菜は皮ごと丸焼きにすると、中が蒸し焼きになって甘みが増す』ってね! ホイル焼きの応用さ!」


確かに千秋は以前、アルミホイルに包んだ野菜を熾火に入れて蒸し焼きにする方法を教えていた。

しかし、ミレーヌはアルミホイルを持っていないため、本当に『そのまま』直火に突っ込んでいるのだ。これではただの黒焦げの炭になってしまうのでは、とジンツは冷や汗をかいたが、もはや勢いで押し切るしかない状況だった。


「チアキさん、キノコ好きだから、私たちがいっぱい採ってきたキノコも焼いてください!」

「はいっ! 毒がないやつだけ、お姉ちゃんがいっぱい選んでくれたんだよ!」


マイとテオが、カゴいっぱいのキノコや野草をミレーヌに手渡した。


「よしよし、よくやったねアンタたち! このキノコは、リネットの剣の先っぽに刺して一緒に焼いとくれ!」

「わかった! ……むっ、肉の脂が落ちて火が強くなってきた! 熱い……! これ以上近づけん!」


リネットが顔を真っ赤にしながら、剣の柄を必死に握り締めている。

大角鳥の極上の脂が落ちるたびに、炎はさらに勢いを増し、モクモクと真っ黒な煙が上がり始めた。

千秋がバーベキューをする時は、煙が出にくい良質な炭を使い、肉の脂が落ちても炎が上がらないように工夫していた。しかし、彼らのドタバタBBQでは、煙のコントロールなど完全に放棄されている。


「ゲホッ! 煙い! 目が痛いぜ!」

「チ、チアキ殿の結界に煙が流れないように、私が風魔法で煙を飛ばしますぅ! 『ウインド・カッター』ですぅ!!」


サリサが再び杖を振り回し、風の魔法を放った。

しかし、慌てていたせいで風向きの計算を誤り、煙は千秋のテントの方へ向かうどころか、肉を焼いているリネットやジンツたちの顔面に直撃してしまった。


「ブフォッ! サリサ、お前わざとやってんのか!」

「目が……目が開けられん! だが、肉を落とすわけにはいかん……!」


黒煙と爆炎の中で、むせ返り、涙を流しながらも必死に肉を炙り続ける異世界の住人たち。

千秋の使っていた『ダッチオーブン』や『ホットサンドメーカー』といった便利な現代ギアがあれば、こんな苦労をすることなく、焦げ付かずに美味しい料理を作れただろう。

火加減を調節できる『カセットコンロ』があれば、涙目で煙にむせることもなかっただろう。

そして、『焼肉のタレ』や『マジックソルト』といった魔法の調味料があれば、味付けに悩むこともなかったはずだ。


しかし、彼らにはそのどれもない。

あるのは、自分たちが普段使っている粗末な道具と、千秋のキャンプ飯を見よう見まねで再現しようとする不器用な記憶。

そして何よりも、「落ち込んでいるチアキを元気付けたい」という、ただそれだけの純粋で強烈な『想い』だけだった。


「そろそろいいんじゃないかい!? 表面はすっかり黒焦げだけど、肉汁が滴り落ちて、いい匂いがしてきてるよ!」


ミレーヌが、煙の中で目を細めながら叫んだ。

確かに、大角鳥の肉の表面は爆炎に炙られて真っ黒に炭化している部分もあったが、その焦げ目の隙間からは、透明な肉汁がジュワジュワと溢れ出し、野性味あふれる猛烈に香ばしい匂いが漂い始めていた。


「よし! 野菜も、外側は真っ黒だが、串を刺したらスッと通ったぞ! 中まで火が通っているはずだ!」


バルガスが、太い木の枝を使って火の中から黒焦げの根菜類を転がし出した。


「味付けはどうする!? チアキが持ってるような、あの甘辛い魔法の粉はねえぞ!」

「酒場から持ってきた、最高級の『岩塩』がある! これを肉に直接すり込んで、豪快に食わせるんだ! 肉の旨味を引き出すには、塩が一番だからね!」


ミレーヌが、ゴツゴツとした岩塩の塊を砕き、焼き上がった巨大な肉の表面にパラパラと豪快に振りかけた。

塩が熱い肉汁に溶け込み、さらに食欲を刺激する香りが広がる。


「よし……! 完成だ!」


ジンツが、汗と煤(すす)で真っ黒になった顔を輝かせて叫んだ。

アルミホイルも、ダッチオーブンもない。ただの直火と、剣の串。

表面はところどころ焦げ付き、野菜は真っ黒な炭の塊のように見える。千秋が作る洗練された美しいキャンプ飯とは程遠い、あまりにも不格好で、ワイルドすぎる野営飯。

しかし、そこには間違いなく、彼らが全力を注ぎ込んだ『異世界流・最高のおもてなしBBQ(肉と野菜の丸焼き)』が完成していた。


「さあ、みんな! この肉が冷めないうちに、急いでチアキのところに持っていくぞ!」

「うむ! 我らの魂を込めたこの料理で、必ずや彼女の笑顔を取り戻してみせよう!」

「チアキねーちゃん、びっくりするかなぁ!」


リネットが剣に刺さったままの巨大な肉を掲げ、ミレーヌが木箱に黒焦げの野菜とエールの樽を詰め込む。

すすだらけの顔を見合わせてニカッと笑い合うと、彼らは足音を忍ばせながら、千秋が落ち込んでいる暗闇の結界の中へと、堂々と突撃を開始したのである。

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