12 毒親 Get the Fxxk off !
「ミサトさん、貴方もここで働かれてはいかがでしょうか?」
「え?……私がここで……?」
「ええ。貴方も社会に出るためには『リハビリ』が必要でしょう。まずは好きな時にできる範囲で良いですよ」
「……分かりました。では、お世話になります。よろしくお願いします」
「やった!じゃあ今日はサンジェル様のオゴリで!」
「マホロさん?まずは友人である貴方がおもてなしするべきではないでしょうか?それを人のサイフをあてにするのですか?」
「ぐっ、正論すぎる……!」
────以上、回想終わり。
というわけで、今日はミサトさんが「バイト」に来ている。彼女は週1回程この事務所に来て、人前に出る「リハビリ」をすることになった。辛い記憶はなくなっても、全ての感覚が消えるわけではない。ふとしたことで思いだそうとした時に、曇ったガラスの向こう側に何かがあるような感覚になるのは、私自身がよく知っている。
彼女の場合は、色んな人からの攻撃があったわけで、「人と接すること」そのものが恐怖のトリガーとなる可能性が高い。だからこそ、まずは限られた空間・人間関係で慣らした方が良い────というのが、サンジェル様の提案だった。なんだかんだ言って面倒見が良いんだよね。人使いは荒いけど。
それで今、私が接客をしているんだけど、この客が……
「ちょっとあなた、ちゃんと聞いてくださってます?うちの子が『クラスの子をイジメた』なんて言われてしまって……なんてかわいそうなのかしら」
「ホントだよ。俺は全然本気なんかじゃなかったし」
「だからですね、もうそんな学校の事なんてキレイさっぱり忘れてしまって、新しいところでやり直そうと思ってここに伺ったんですのよ?」
「あ、はい…アリガトウゴザイマス」
仕事、とは言うものの……なんか嫌な親子だなあ。
奥の方ではミサトさんが仕事をしている。このバカ親子の会話、聞こえてないよね?もう適当にあしらってさっさとお帰りになってもらおう。
……って、そう思っていたら。
「だいたいさぁ、遊びだって言ってんのに、なんで俺が色々言われなきゃいけねーんだよ」
「そうよねー。そしたら弁護士使って示談金支払ってさっさとなかった事にしちゃいましょうか?このままだとあなたに変なキズがついちゃうものねぇ」
「これって…そう、『冤罪』ってヤツじゃね?」
「あら、あなたよく知ってるわね。賢いわぁ」
あー……これダメだ。
ブッチン!
「こぉのバカ親子がぁぁぁ!」
そう叫んで目の前のカウンターをバァン!と踏みつける。途端にビクッと硬直するバカ親子に、私はまくし立てた。
「ア、アナタ、何を……?」
「心に負った傷はね、そう簡単に消えないんだ!『遊び』ですって?人を自分の遊び道具にするんじゃない!このバカヤローがぁ!」
「ヒィィッ!?」
「あ、あなたうちの息子になんてことを…?」
お?まだ擁護するつもりか?
この毒親がぁ!
「てめぇもてめえだ!だいたい子どもの不始末くらい、親だったらキッチリ責任とらせろやぁぁぁ!」
マズい。自分でも冷静じゃないって分かってるけど、ダメだ止められない!でもコイツら、コイツらみたいなヤツがいるから……!
パチン!
後ろから「指鳴らし」の音がすると同時に、魔法陣が目の前に浮かび上がってバカ親子の動きが止まった。振り向くとそこには深いため息をつくサンジェル様が。
「サンジェル様……!」
「そこまで。相手はあくまでも『お客様』ですよ?」
「す、すみません!……つい我慢できなくなってしまって……」
分かってる。例え意に沿わない相手であっても仕事は仕事。徹しなきゃいけない時がある。
でも、それでも私は……
「サンジェル様、マホロさんは私の事を思いやってくれて……」
「ええ、それは分かっています。私も少々不快に感じましたので、今回は不問とします。さてマホロさん、ここからは私が受け持ちを変わりましょう。あなた方は気分転換にどこかでお茶でもしてきてください」
あ。
笑ってるけど、笑ってない顔だ。
これ絶対怒ってるよね。
「あの……?何、するんですか?」
「いえ?少しだけ、この親子には『反省』をしていただくだけですよ?」
……あんまり深く聞かない方が良さそう。
でも、なんだろう。やっぱり悪い人じゃ、ないんだよね。
「じゃあ行ってきます」
「失礼します」
「ええ。ごゆっくりどうぞ」
カラン カラン カラーン……
一人残ったサンジェルは、軽いベルの音を残して出かけていった二人を笑顔で見送った。それはまるで、子どもを見守る親の様な優しい目で。
「さて………」
しかし、動きを固められた親子に向けられた顔は、まるで氷の世界に放り込まれたかのように錯覚させられる視線へと変わっており、その親子の顔が青ざめていく。
「……体は動かないですが意識はあるでしょう?そのまま、貴方たちのここでの記憶を抜き取るとしましょう。ああ、そうそう。私を不快にさせてくれた御礼を差し上げないといけませんねえ。では、こちらの『社会的に追い詰められた人の記憶』を植え付けて差し上げましょうか。それともこちらの『拷問のようなイジメを受けた人の記憶』に致しましょうか?どちらもとっておき、ですよ?」
その言葉を聞き、親子の身体は震え、目からは涙が溢れ始める。
サンジェルはその様子を見て、静かに耳元で囁くのだった。
「いえいえ、ご遠慮なさらず。お代はタダで結構でございます」
その口元に、冬の空に輝く薄く鋭い三日月の様な笑みを浮かべながら。




