13 私は忘れても、向こうが忘れている訳じゃないの
カラン カラン カラーン
「えっと……よ、ようこそいらっしゃいました。ご用件を伺って、も……?」
マホロが怯むのも無理はない。ドアの前に立っているのは、ロングヘアーでバッチリメイクの……まるでメイド喫茶から抜け出てきたような姿をした女性。「お店を間違えていませんか?」と、思わず問いたくなってもおかしくはない。
基本的にこの扉は「記憶を売りたいと願う人」もしくは「招待状を受け取った人」にしか開くことはない。で、あればこの人物が売りたい記憶とは、一体何だろう?とマホロが思考を巡らせていた最中に、そのメイド服の女性はその口を開いた。
「私よ?マホロさん」
「…え?……あ!ミサトさん!?」
先日までのどこか地味で目立たない格好だったミサトが、ここまで来るのはさぞ目立ったであろうと思われる姿になっている事に驚きつつも、マホロはミサトを招き入れた。
「ちょっと待っててね」
そう言ってダイニングに消えたマホロは、ほどなくしてティーセットを持って戻ってきた。2人分の紅茶をカップに注ぐと、マホロはミサトの座っているソファーの向かい側に座った。部屋の中に紅茶の良い香りが漂っている。
「やっぱりここは落ち着くわね……どう?似合う?」
「うん似合う、けど……なんでその格好?」
ミサトはその問いかけに直ぐには答えなかった。かわりに紅茶を一口飲んで、改めてマホロを見つめた。マホロはその間何も言わず、ただミサトが言葉を紡ぐのを待っていた。
「あのね。私、やっぱりいつまでも外に出られないのは嫌。今はネットの世界だけで完結しようと思えばできちゃうけど、やっぱり直に人と接したいって気持ちはあるの」
「うん、それはわかる。新型の感染症でオンラインとかリモートとかの環境は一気に整ったけど、やっぱり人は戻ってきてるもんね」
「そっちが良いって人も、もちろんいるけどね。でも、私は違った。外の世界に出て行かなかった時、『ここが私の居場所で、必要十分』とか思ってたけど、ただの強がりだったって、いま改めて思うの」
「……そっか」
「でも、ね。やっぱり怖いの。外に出ることが。私は『記憶を売る』事で重荷を減らせた。けど、私は忘れても、相手が忘れてはいないって思うと、それだけで心も体も硬くなってしまうの」
「それは……わかるよ。私もそう。いつもどこからか見張られていないかと思うことがあるもの」
「だから、このメイクとコスチュームは、私なりの『戦闘服』。以前の私を隠して、外に出るための姿。まぁでも、こんな格好にも興味はあったんだけどね?」
「そっかぁ。……でも本当に綺麗になりすぎて、一瞬誰かわからなかったよ」
「えーと、それ元がヒドイって事かなあ?ショックぅー」
「え、いや!そんな意味じゃなくって…!」
「ふふ……冗談よ。マホロさんがそんな事言うわけないもの。さ、お茶しましょ」
「もぉ~」
2人は紅茶を飲みながら談笑に興じる。
その様子を見たサンジェルは笑みを浮かべ、扉の札をそっと「Closed」に変えるのだった。
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「ところで……その手に持っているのは何?」
「ああこれ?護身用のエアガン。私、サバゲ―得意なの」
「……それ人に向けて撃っちゃダメなヤツなんじゃ?」
「サンジェル様から『持っておきなさい』って渡されたの。なんか『弾丸は特別製です。当たった相手の記憶が一発につき5分間分吹っ飛びます』だって。フルオートだと1秒間で25発撃ち込めるとか……」
「改造ガンより性質悪くない⁉」




