第21話 一人目の決着
一対一。
そう思った瞬間、逆に圧が増した。
白い外套の観測者は、迷いなくこちらに踏み込んでくる。
「……来るぞ」
カイの声。
次の瞬間、空気が沈んだ。
「――固定」
短い一言。
それだけで、床が重くなる。
「っ……!」
足が止まる。呼吸が浅くなる。
「……これ、まずいです!」
ミハイルが叫ぶ。
「わかってる」
固定されている。
空間ごと、動きを止めに来ている。
「……っ」
ペンを握る。
だが――
「……効かない」
空間改訂を試みるが、すぐに戻される。
「当然だ」
白外套が言う。
「確定した状態は、揺らがない」
「……そうかよ」
なら。
「確定してるのは“今”だけか?」
男がわずかに目を細める。
「……何?」
その反応で、確信した。
今だ。
「……なら」
ペンを動かす。
対象は――“現在”じゃない。
その前。
この男が、ここに立つ“前”。
「……っ」
強烈な抵抗。
だが、今までとは違う。
固定されていない部分。
そこに触れている。
「……過程に干渉するのか」
男の声が、初めてわずかに揺れる。
「そういうことだ」
押し込む。
結果じゃなく、過程。
確定する前の状態。
「……っ!」
視界が軋む。
だが、止めない。
「固定ってのは」
息を吐く。
「結果だろ」
さらに押す。
「なら――」
歪みが生まれる。
ほんの一瞬。
「結果になる前を、変えればいい」
その瞬間。
男の位置が、わずかにズレた。
「……っ」
初めて、足が止まる。
「カイ!」
「任せろ!」
横から、圧がぶつかる。
ミハイルも繋がる。
負荷が分散される。
「……今だ!」
最後に押し込む。
ペンを叩き込む。
過程のズレを、確定に変える。
「……っ!!」
空間が、歪んだ。
一瞬、すべてが止まる。
そして。
「……」
白外套の男が、膝をついた。
「……固定が……崩れた……?」
信じられない、という声。
「崩したんだよ」
俺は息を整える。
「結果じゃなくて、途中からな」
男は顔を上げる。
その視線に、初めて明確な感情が混じる。
「……危険だな」
「今さらだろ」
ペンを構える。
だが、もう抵抗は弱い。
「……終わりだ」
静かに言って。
最後の改訂を叩き込む。
男の存在が、揺らぐ。
「……っ」
観測が乱れる。
固定が、崩れる。
そして。
――消えた。
静寂。
重かった空気が、一気に軽くなる。
「……終わった、か」
カイが言う。
「一人目、撃破ですね……」
ミハイルが息を吐く。
「……ああ」
俺も、ようやく息をついた。
勝った。
理屈で、崩した。
その実感が、遅れて来る。
「……やるじゃん」
リゼが笑う。
「固定崩しとか、初見殺しすぎ」
「そうでもない」
俺は首を振る。
「理屈は単純だ」
「単純じゃないって」
軽口。
少しだけ、空気が戻る。
「……でも」
ミハイルが言う。
「これで、一人減りましたね」
「ああ」
だが。
「まだ二人いる」
油断はできない。
そのとき。
「……あれ?」
ミハイルが首を傾げる。
「どうした」
カイが聞く。
「いや、その……」
ミハイルが俺を見る。
「さっきの動き、すごかったです」
「……さっき?」
口に出した瞬間。
違和感。
何かが、引っかかる。
「え?」
ミハイルが固まる。
「今の戦いですよ」
「……ああ」
少し遅れて答える。
だが。
妙だ。
「……?」
視界が、わずかに欠ける。
音が、遠い。
「……アーカス?」
ミハイルの声。
その名前が。
一瞬だけ。
理解できなかった。
「……ああ」
答える。
問題ない。
まだ。
動ける。
だが。
何かが、確実に減っている。
その感覚だけは、はっきりしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一人目、決着です。
そして少しずつ“何か”が削れ始めています。
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