表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前も存在もない俺だけが、世界を書き換えられる件 ―観測されない男は、すべての記録を上書きする  作者: 空城ライド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

第20話 固定する者、崩す者

 一対一だ。


 そう思った瞬間、少しだけ世界が静かになった。


「……来るぞ」


 カイの声は低い。


 分けられた一人――白い外套の男が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 速くはない。

 だが、迷いもない。


「……あれ、さっきの奴と違いますよね」

 ミハイルが言う。


「違うな」


 黒ではない。

 動きも違う。


 観測者というより――


「……固定専門か」


 俺が呟くと、男がわずかに反応した。


「正解だ」


 初めて、はっきりとした声。


 感情は薄い。

 だが、意志はある。


「……役割分担、ってやつか」

 カイが言う。


「そういうことだ」


 男は止まらない。


 一歩、また一歩。


「……止まらないな」

「止める必要がない」


 その言葉が、妙に腹に落ちる。


 こいつは“止める”側じゃない。


 “決める”側だ。


「……固定するってのは」


 俺はペンを構えながら言う。


「そんなに偉いのか」


 男はわずかに首を傾けた。


「偉い?」


「優先順位の話だ」


 距離が、縮まる。


「曖昧なものは、不安定だ」

 男は言う。

「不安定なものは、崩れる」


 当然の理屈だ。


「だから、固定する」

「そうだ」


「……じゃあ」


 俺は一歩前に出た。


「崩す側はどうなる」


 一瞬だけ、男の動きが止まる。


 その間を、逃さない。


「……っ」


 ペンを動かす。


 対象は、男。


 その“固定”。


「……干渉か」


 男が言う。


 避けない。


 むしろ。


「来い」


 受ける姿勢だ。


 その態度が、厄介だ。


「……なら」


 押し込む。


 固定された存在。


 そこに。


 ズレを作る。


「……っ!」


 強烈な反発。


 弾かれる。


「……効かないな」


「当然だ」

 男が言う。


「固定されている」


「……なら」


 俺は視線を変える。


 対象は、男ではない。


 その“足元”。


「……っ」


 空間。


 位置。


 そこをズラす。


 直接ではなく、間接。


「……なるほど」


 男が言う。


「基盤を崩すか」


「そういうことだ」


 押し込む。


 空間の関係を。


 ほんの少し。


 ズラす。


「……っ」


 成功。


 男の位置が、わずかに揺れる。


「……効いたな」

 カイが言う。


「完全じゃないが」


 男は一歩、止まる。


 そして。


「……理解した」


 静かに言う。


「お前は、“外側”から崩す」


「直接は無理だからな」


 認めるしかない。


 正面からは勝てない。


 なら。


「周りを変える」


「……合理的だ」


 男は一歩、踏み込む。


 今度は速い。


「……っ!」


 空気が締まる。


 観測ではない。


 固定。


 その圧が、直接来る。


「……重い!」


 ミハイルが叫ぶ。


「押されてる!」


「来るぞ!」

 カイが言う。


 男の視線が、こちらを捉える。


「……固定する」


 その一言と同時に。


 体が、重くなる。


「……っ」


 動きが鈍る。


 足が、止まりそうになる。


「……まずいな」


 このままだと。


 固定される。


「……アーカス!」


 ミハイルの声。


「……わかってる」


 ペンを握る。


 対象は、自分。


 固定された存在。


 その中に。


「……揺れを入れる」


「……できるのか」

 カイが言う。


「やるしかない」


 触れる。


 固定された自分。


 そこに。


 ほんの少しだけ。


 ズレを。


「……っ!!」


 激痛。


 今までで一番、強い。


「……っ、く……!」


 視界が揺れる。


 だが。


 押す。


 固定された中に、揺れ。


 矛盾を作る。


「……今だ!」


 ペンを離す。


 一瞬。


 体が軽くなる。


「……動ける!」


 ミハイルが叫ぶ。


 成功だ。


 完全ではないが。


 固定を回避した。


「……ほう」


 男が、初めて明確に反応する。


「自分に矛盾を作ったか」


「そういうことだ」


 呼吸が荒い。


 だが、立っている。


「……だが」


 男が言う。


「それは長く持たない」


「わかってる」


 当然だ。


 矛盾は、崩れる。


「……なら」


 俺は一歩踏み出した。


「崩れる前に終わらせる」


「……できるか」


「やる」


 ペンを構える。


 対象は。


 男ではない。


 この空間。


 診療所。


 その“固定”。


「……っ」


 押し込む。


 構造。


 関係。


 それを。


 揺らす。


「……っ!」


 負荷が跳ね上がる。


 だが。


 分散されている。


 ミハイル、カイ。


 耐えている。


「……いける!」


 最後に押す。


 そして。


 ペンを離した。


 世界が、わずかに歪む。


「……っ」


 男の動きが止まる。


 固定が、乱れている。


「……成功だな」


 カイが言う。


「一瞬だけだが」


 それでいい。


「……これで」


 俺は息を吐く。


「一歩、上だ」


 男を見る。


 その視線が、わずかに変わる。


「……認める」


 小さく言う。


「お前は、危険だ」


「今さらだな」


 そのとき。


 別の気配が動いた。


「……っ」


 カイが振り向く。


「来たぞ」


 もう一人。


 分けられた残りの一人。


「……早いな」


 リゼが言う。


「思ったより」


 男が一歩下がる。


「続きは、次だ」


 その一言で。


 空気が変わる。


「……逃げるのか」

 俺が言う。


「違う」


 男は首を振る。


「“繋ぐ”だけだ」


 その意味を理解する前に。


 もう一人の気配が、はっきりと現れる。


「……二対一か」


 カイが言う。


「さっきより悪いな」


 ミハイルが息を呑む。


「……これ、きついですよ」


 俺はペンを握り直す。


 息を整える。


「……関係ない」


 小さく言う。


「数は、関係ない」


 その言葉は。


 自分に言い聞かせていた。

読んでいただきありがとうございます。


 一対一の攻防から、再び複数戦へ。

 ここからさらに難易度が上がっていきます。


 続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ