表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前も存在もない俺だけが、世界を書き換えられる件 ―観測されない男は、すべての記録を上書きする  作者: 空城ライド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/24

第19話 三対一の開始

 ――対象数:三。


 その数字は、シンプルすぎて逆に重かった。


「……三人か」


 俺は台帳を閉じた。


 診療所の静けさが、さっきまでとは別の意味を持つ。


「一気に来ますね」

 ミハイルが言う。


「来るな」

 カイも頷く。


 リゼは、少しだけ楽しそうに笑った。


「いいね、わかりやすい」


「どこがだ」

 俺が言う。


「対立が明確になった」


 その通りだ。


 曖昧ではない。


 敵対。


 はっきりと書かれている。


「……で」


 カイが周囲を見る。


「どこから来る」


「わからない」

 俺は答える。


「だが」


 視線を上げる。


「すでに来てる可能性はある」


 その言葉に、空気が変わる。


「……え?」

 ミハイルが振り返る。


「診療所の中ってことですか?」


「外とは限らない」


 人の多い場所。


 紛れるには最適だ。


「……じゃあ」


 カイが低く言う。


「見つけるか」


「無理だな」

 俺は即答した。


「普通には見えない」


 観測者。


 “見える側”。


 だが、それでも。


「完全にはわからない」


「じゃあどうするんですか」

 ミハイルが言う。


 少しだけ焦りが混じっている。


「……誘う」


「誘う?」

 リゼが目を細める。


「そうだ」


 俺はペンを取った。


「観測させる」


 意図的に。


 こちらを。


「……危なくないか」

 カイが言う。


「危ない」


 即答する。


「だが、待つよりマシだ」


 いつ来るかわからない敵を待つより。


 引きずり出す。


「……なるほど」


 リゼが頷く。


「いいじゃん」


「ミハイル」

 俺は言う。


「はい」


「観測を意識しろ」


「……どうやって」

「見られている前提で動け」


「……はい」


 完全な理解ではない。


 だが、それでいい。


「……行くぞ」


 俺はペンを動かす。


 対象は、自分。


 固定された存在。


 そこに。


 わずかな“揺れ”を作る。


「……っ」


 強い抵抗。


 固定されている分、動かしにくい。


 だが。


「……少しでいい」


 完全に変えなくていい。


 “見えるようにする”。


 それだけだ。


 押し込む。


 少しだけ。


 存在にノイズを入れる。


 そして。


 ペンを離した。


 空気が、わずかに歪む。


「……来る」


 リゼが言った。


 その瞬間。


 診療所の奥で、何かが動いた。


「――っ」


 空気が裂けるような感覚。


 誰もいなかったはずの場所に。


 “人影”が現れる。


「……一人」


 カイが言う。


「二人目も」


 反対側。


 受付の奥。


 もう一つの影。


「……三人目」


 ミハイルが小さく呟く。


 天井近く。


 影のように、存在している。


「……全員来たな」


 三つの気配。


 それぞれ違う。


「……見えるのか」

 俺が聞く。


「ぼんやりと」

 ミハイルが答える。


「はっきりしてきた」

 カイも言う。


 観測が成立している。


 互いに。


「……出てきたな」


 俺は一歩前に出た。


 正面。


 一人目。


 白い外套。


 黒ではない。


 そして。


「……観測者か」


 男は何も言わない。


 ただ、こちらを見ている。


 感情は読めない。


「……あれ、違うな」


 リゼが言う。


「観測だけじゃない」


「何だ」

 俺が聞く。


「固定寄り」


 つまり。


 役割が違う。


「……分担か」

 カイが言う。


「そういうことだ」


 三人。


 それぞれ役割がある。


「……厄介だな」


 俺は小さく呟いた。


 一人じゃない。


 連携してくる。


「……どうする」

 ミハイルが聞く。


 声が少し震えている。


「……分ける」


「分ける?」

「そうだ」


 俺はペンを構える。


「一対三なら、負ける」


「……正直だな」

 カイが言う。


「事実だ」


 なら。


「一対一にする」


「……できるのか」

 リゼが言う。


「やる」


 それしかない。


 対象は、構造。


 この空間。


 診療所。


 その中の“位置関係”。


「……っ」


 ペンを動かす。


 空間の関係。


 三人の位置。


 それを。


 切り離す。


「……押す」


 重い。


 さっきの比じゃない。


 だが。


 分散されている。


 ミハイル、カイ。


 負荷が流れる。


「……今だ!」


 押し込む。


 そして。


 ペンを離す。


 空間が、歪む。


 一瞬。


 世界がズレる。


 そして。


「……っ」


 気配が、一つ消える。


「……一人消えた!」


 ミハイルが叫ぶ。


「違う」


 リゼが言う。


「“分かれた”」


 視界の端。


 別の場所。


 離れた位置に、気配がある。


「……成功だな」


 カイが言う。


「一対一にできる」


 だが。


 その瞬間。


「……っ!」


 頭に、強い痛みが走る。


「アーカス!」

 ミハイルが支える。


「……問題ない」


 だが。


 明らかに、さっきより重い。


 削れている。


「……無理するな」

 カイが言う。


「……まだいける」


 そう答えるしかない。


 残り二人。


 だが。


「……来るぞ」


 リゼが言った。


 分けられた一人が。


 こちらに近づいてくる。


 ゆっくりと。


 確実に。


「……一対一だ」


 俺はペンを握る。


 心臓が、少しだけ速い。


 だが。


「……やるしかない」


 その言葉は。


 もう、揺れていなかった。

読んでいただきありがとうございます。


 ついに“三対一”から“一対一”へ。

 ここからは個別の戦いに入っていきます。


 続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ