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名前も存在もない俺だけが、世界を書き換えられる件 ―観測されない男は、すべての記録を上書きする  作者: 空城ライド


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第18話 不可逆の証明

 戻れない。


 その事実は、体より先に頭に来た。


「……不可逆、か」


 台帳の文字を見たまま、俺は呟く。


 不可逆領域。


 つまり――やり直しが効かない。


「……それ、どういう意味?」

 ミハイルが恐る恐る聞く。


「そのままだ」


 俺は答える。


「もう戻せない」


 何を、とは言わない。


 だが全員、理解している。


 今までの改訂とは違う。


 “やりすぎた”。


「……はは」


 カイが小さく笑う。


「ついに来たな」


「楽しそうだな」

「面白いからな」


 軽いが、現実逃避ではない。


「……で」


 リゼが俺を見る。


「どう?」


「何が」

「変わった?」


 自覚。


 それがあるかどうか。


「……わからない」


 正直に言う。


 だが。


「一つだけ」


 視線を上げる。


 黒い外套の男。


 あいつの存在が。


 はっきりと見える。


「……観測されてる感じが、減った」


「当然だ」

 男が言う。


 声は落ち着いている。


 だが、さっきよりも距離がある。


「固定された存在は、干渉されにくい」


「……なるほど」


 理屈はわかる。


 曖昧なものほど、影響を受けやすい。


 逆に。


「……固めれば、強い」


「そうだ」


 男が頷く。


 初めての肯定だ。


「だが」


 一歩、近づく。


「その分、“変えられない”」


 言葉が刺さる。


「……当たり前だな」


 固定とは、そういうことだ。


 動かない。


 変わらない。


「……でも」


 ミハイルが言う。


「今までみたいに、消えたりしないってことですよね」


「そうだな」


 少なくとも。


 簡単には消えない。


「……なら、悪くないんじゃ」


「半分だけ正解だ」

 カイが言う。


「半分?」


「残りの半分が問題だ」


 俺も頷く。


「……動けない可能性がある」


「え?」


「変えられないってことは」


 言葉を選ぶ。


「“進めない”」


 静寂。


 リゼが少しだけ笑う。


「いいね」


「何が」

「ジレンマ」


 楽しそうだ。


 だが、間違っていない。


「……試すか」


 俺は言った。


「何を」

 ミハイルが聞く。


「改訂」


 自分に対して。


「……できるんですか」

「やってみる」


 ペンを取る。


 対象は、自分。


 固定された存在。


 それを。


「……触れる」


 ペンを動かす。


 触れた瞬間。


「……っ」


 弾かれた。


 明確に。


「……なるほど」


 苦笑する。


「完全に弾かれるな」


「……できない?」

 ミハイルが聞く。


「今のままじゃ無理だ」


 固定されている。


 つまり。


「……自分を変えられない」


 それが意味するものは、重い。


「……詰みじゃないですか」

 ミハイルが言う。


「そうでもない」


 俺は首を振る。


「外は変えられる」


「……ああ」


 カイが納得する。


「自分は固定、周りを変える」


「そういうことだ」


 戦い方が変わる。


 それだけだ。


「……でも」

 ミハイルが言う。

「それ、結構不利じゃ」


「当然だ」


 俺は笑った。


「最初から有利だったことなんてない」


 リゼが小さく吹き出す。


「それはそう」


 そのとき。


 男が言った。


「……理解が早いな」


「お前に言われると腹立つな」

「事実だ」


 男は一歩下がる。


「なら、次だ」


「次?」


「確認は終わった」


 その言葉に、違和感がある。


「……帰るのか?」

 俺が聞く。


「いや」


 男は首を振る。


「“上”に報告する」


 その一言で、空気が変わる。


「……上?」


 ミハイルが呟く。


「組織、か」

 カイが言う。


 男は答えない。


 だが。


 否定もしない。


「……なるほど」


 俺は小さく呟いた。


 一人じゃない。


 当然だ。


 観測者。


 それが一人だけのはずがない。


「……増えるな」


「そうなる」

 男が言う。


「お前は、もう“対象”だ」


 その言葉は、静かに重かった。


「……対象か」


 苦笑する。


「今さらだな」


「違う」


 男が言う。


「“管理対象”だ」


 その一言で。


 完全に、立場が変わる。


 ミハイルが息を呑む。


「……面倒だな」

 カイが言う。


「急に大きくなった」


「そうだな」


 個人の問題ではなくなる。


 組織の問題。


 管理される側。


「……どうする」

 リゼが聞く。


 楽しそうではない。


 少しだけ、真面目だ。


「……どうもしない」


 俺は言った。


「来るなら、対応する」


「強気だね」

「そうでもない」


 ただ。


「止まれないだけだ」


 それがすべてだ。


 男が、扉に向かう。


「……次は」


 一瞬だけ振り返る。


「一人では済まない」


 その言葉を残して。


 出ていった。


 静寂。


 重い沈黙。


「……増えますね」

 ミハイルが言う。


「確実にな」

 カイが答える。


 リゼが、小さく息を吐いた。


「いいね」


「何が」

 俺が聞く。


「やっと、“対立”になった」


 その言葉は。


 少しだけ、救いだった。


 そして。


 台帳が、再び震える。


「……来たか」


 開く。


 文字が、浮かぶ。


 ――新規観測対象:追加。


 ――分類:敵対。


「……は?」


 思わず声が出る。


 ミハイルが覗き込む。


「……敵対?」


「そう書いてある」


 カイが苦笑する。


「わかりやすいな」


 だが。


 その下の一行が、問題だった。


 ――対象数:三。


「……増えてるな」


 リゼが静かに言う。


「一気に来るよ」


 その言葉は。


 予告ではなく。


 確定だった。

読んでいただきありがとうございます。


 ついに“不可逆”へ到達し、さらに“組織”との対立が始まりました。

 ここからは一対一ではなく、複数との衝突です。


 続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

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