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八話 歪んだ ④


 崩れたはずの骸骨は、黄色い光に包まれ、徐々に形を取り戻していく。

 呆気に取られているうちに、骸骨は完全に元の姿に戻ると、再び鎌を構えた。


「ちっ!」


 忌々しげに舌打ちをし、神井さんは直ぐ様もう一度同じ技を繰り出す。しかし、再び崩れたかと思った骸骨は、あっけなく元に戻ってしまう。


「神井さん!」


 目の前の骸骨の攻撃を避けるのに手一杯の俺は、その様子を横目で見ているしかなかった。


「無駄だよっ! ボクのパパとママは強いんだ!」


 まるで自分のおもちゃが最強だと喜ぶみたいに、嬉しそうに声を上げ、少年は目を見開き、高らかに笑う。

 骸骨から振り上げられた鎌は、勢いよく俺の頭上を狙ってくる。俺より一回りほど大きく見える骸骨だが、神井さんの方と比べてみると、明らかにこちらの方が大きい。


 ──こっちのゴツイのが父親か?


 などと、どうでもいいことが頭をよぎる。

 こういう場合、大抵、操っているやつを叩けば攻撃は止まるはず……。


 ──叩く? 子供を? 


 俺が木刀なんかで本気で殴ったら下手したら死ぬぞ? それに、目の前のゴツイ骸骨を突っ切って、後ろの子供の方に向かえるとも思えない。

 と、なると、やはり神井さんか……。


「神井さん!」


 俺は目配せをし、神井さんと目を合わせた後、子供の方をチラリと見た。

 神井さんは俺の意図を察してくれたのか、直ぐ様目の前の骸骨にもう一度関節技を決め込み、バラバラにした後、子供の方に走っていく。


「──っ!」


 だが、俺と対峙していたはずの父親が、神井さんと子供の間に割り込む。俺が父親をうまく引きつけられなかったせいで、バラバラだった母親の骸骨も、黄色い光を放ちながら瞬時に元の姿へと再生していく。

 結果、父親と母親の両方が、神井さんを板挟みする形になった。

 直後、二体から振り下ろされた刃は、神井さんの頭上に落下していく。


「神井さん!」


 俺が叫ぶのと同時に、神井さんは、二体の鎌を真正面から一度に受け止めた。


「こっちを向け! デカいの!」


 俺は瞬間的に、父親の骸骨に走り出すと、その頭上目掛けて木刀を振り下ろす。


「無理するな! 浅羽!」


 ──バキッ!


 父親の頭骸骨が思いの外(ほか)硬く、俺はそのまま地面に尻もちをついた。が、どうやら気をこちらに向けるのには成功したようで、父親の骸骨は俺の方に向き直った。


「へへっ」


 すぐに立ち上がり、再び俺は骸骨と向かい合わせる。後ろの方で「ハハッ」と笑う声が、俺の耳に届いた。


「何をやっても君たちはボクのパパとママには勝てない! もう諦めたら?」


 無邪気さの中に満ちた悪意のこもった声が、暗い公園内に響き渡る。


 パパとママ、か……。大体あの骨はそもそも何処から沸いて出てきたんだ? 最初は小さな喉仏だったはず……。喉仏? まさか──!


「神井さん!」


 俺は振ってくる鎌を転がるように躱(かわ)すと、その勢いで、神井さんの隣に立つ。





「なるほど、そういうカラクリか」


 神井さんの目が、目の前の骸骨をギラリと睨んだ。


「一気にやるぞ! 浅羽!」

「はい!」


 鎌を軽くあしらい、木刀を握り直した神井さんは、俺と背中合わせに並ぶ。

 そして、俺は振り上げられた鎌をすんでの所で躱すと、父親の背後に跳び上がった瞬間、右手の抜き打ちを首に叩きつけた。

 パキッと骨の割れる音がし、父親骸骨はその場に膝から崩れ落ちていく。俺はその後ろで、地面へと立て膝で着地をした。

 神井さんも、骸骨の首の後ろの突出した骨を華麗にさっと叩くと、何事もなかったかのように木刀を脇に納めた。

 公園の暗闇の中、あんなに激しかった戦闘も一瞬にして静寂に落ちていく。俺の黒髪と神井さんの銀髪が、冬の夜風に靡いていった。







 骸骨がバラバラに砕け散った後、骨は跡形もなく消え去り、最後に残ったのは、真っ二つに割れた喉仏二つだけだった。


「そんな……パパ、ママ……」


 ガクッと膝を落とし、蒼白した顔で、少年は喉仏の欠片を拾い上げる。


「どうして……」


 喉が締まっているようなか細い声が、少年の奥から発せられた。


「ボクはただ、また家族四人で暮らしたかっただけなのに……見た目は違っても、中身が同じならそれでいいと思っだけなのに…… なのに……」


 苦しそうに息をし、少年はその小さな体を震わせていた。


「あぁぁぁぁ~! パパ~!! ママ~~!!!」


 見開かれた瞼が歪んでいくのが分かり、目から涙が零れ落ちていく。綺麗な涙が公園の柔らかな土の上に落ちては吸い込まれていった。それは歪んだ──いや、子供特有の、とても純粋すぎるが故の愛情だった。

 目の前で泣きじゃくる小さな子供。小さな手を必死に動かしては、その伝い落ちる涙を懸命に擦っている。そんな様子に、俺はギュッと胸が締め付けられる思いだった。


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