五話 守りたかったモノは ⑥
遠くで見ているしかなかったけど、今は大丈夫そうだな。
最初は険悪そうな雰囲気で、どうなることかと思ったけど。二人共、何を話してたんだろうか?
安心した瞬間、時間を確認しようとスマホをちらりと見る。そういえば、バイブにしてたな。
いっ!? 何だ!? このメッセージの量?!
おまけに不在着信二十件……。
俺は取り敢えず、メッセージアプリを開いた。
そこには鬼のような量の母からのメッセージ。
『祥太郎? 何時に帰るの?』
『あんた図書館に行くって言ってたけど遅くない?』
『今近所の人に聞いたら図書館で事件があったって聞いたけど大丈夫なの?』
『おい! 電話出ろ!』
『ちょっと大丈夫なの?! 連絡して』
『ねえ、あんた優希ちゃんと一緒なの? 今、優希ちゃんのお母さんが来て、まだ帰って来てないって…。連絡つかないらしい』
『電話でろ⊂(`Д´#)』
ヤバイヤバイ! そう思っていると、突然電話が鳴った。
「も、もしもし……?」
《あんた何してんの!? 優希ちゃんと一緒なの!?》
「う、うん……」
がなる声とともに、切迫した様子が母の声から伝わってくる。思わず音量ボタンを下げた後、その話しを恐る恐る聞き、俺は驚愕した。
「え? マジで!?」
俺は慌てて電話をガチャリと切り、庭でまだ談笑している優希に駆け寄った。
「優希ー!」
幸宮さんと話したかったが、それどころではなくなってしまった。
ちらりと、幸宮さんの顔を覗き、彼女が優しげに微笑んでいるのを確認する。その笑顔に安堵を覚えつつ、いや、今はそんな場合ではないと、俺は優希の方に向き直った。
「今、母さんから連絡あって! 優希が家に帰らないって、おばさんが訪ねて来て! 警察呼ぼうか考えてるって!」
「え!?」
「優希、お前、おばさんに連絡してなかったのか?」
そう訊ねると、優希は慌ててバックからスマホを取り出した。
「お母さんからすごい着信と通知来てる……。あ、そういえば、図書館でサイレントにしたままだった……」
「早く帰んないと、マジで警察呼ばれる……」
血の気が引く感覚を覚え、俺は思わず頭を抱えた。
「と、取り敢えず電話!」
優希は蒼白した顔で、慌てて母親に電話をした。
夕日は完全に落ち、時間は薄紫色の空から漆黒の夜空に変わる頃だった。
「大変だのぅ~」
ヨウコ先生が呑気にお酒を片手に現れる。リラックスタイムのようで、微妙にはだけた着物が、その酔いを示していた。
「ヨウコ先生! 何でお酒呑むんですか?! 俺たちを車で送って下さいよ!」
「わしをアッシー代わりにするでない! もう今日は泊まればよいであろう」
「え? で、でも…」
「どれ、その板を貸してみよ」
ヨウコ先生は酔っ払いながら、優希の話している携帯を奪い取ると、
「お初にお目にかかる。わしは、高戸第一高校の養護教諭をやっている、東雲ヨウコと申す者! お宅の娘さんはわしの所で責任を持って預か──え? だからわしは──いや、この喋り方は生まれつきで──無責任? 無責任ってことは……いやいやだからわしは怪しくは──」
(何か揉めてんなぁ……)
ヨウコ先生の電話する姿を微妙な気持ちで眺めていると、
「そんなとこにいつまでもいると、蚊に刺されるよ~」
胡散臭い笑顔で加賀美が手を振りながらこちらに近寄ってくる。
電話を取られて呆然としていた優希は、その加賀美の姿を見て、体を少しばかり硬直させた。
(まあ、あんな威圧的な態度取られたら、怖いよな……。ただでさえ、加賀美は胡散臭いし……)
それに気付いた加賀美は、ニッと眉尻を下げて、またしても胡散臭い笑顔で喋る。
「いやぁごめんねぇ、優希ちゃーん。まだ慶子さんの沙汰が下ってなかったからあんな風に威圧的になっちゃったけど。まあ、僕は最初からこうなるって分かってたけどね」
「そ、そうですか……」
顔を背けながらそれしか言えず、優希は俺の服の裾をきゅっと掴んだ。
ほんと、喰えない野郎だぜ、加賀美の野郎。
「あんまり鈴原を怖がらせるな」
幸宮さんが優希と加賀美の間に割って入り、キッと睨みを利かせた。
「えぇ~? 僕はいつも通り振る舞ってるだけだけど?」
「そのいつも通りが悪いということに気付かないのか?」
「そんなぁ……」
加賀美はわざとらしく項垂れた。しかし、気にも留めてないように次の瞬間には、
「まあ、いいや。ところで優希ちゃん」
と、素早く優希の背後に回ると、いきなり優希の肩を掴んだ。
「──っ!?」
「ささ、こんな所に居ないで。中に入って」
優希の肩をグイグイ押し、強制的に連行する加賀美。
「え? でも……」
優希はヨウコ先生の方をチラッと横目で見た。先生が自分の母親と何を話しているのか気にしているようだ。
「……あれは時間かかるから、中でお茶でも飲んでよ。ほら、蚊に刺されるから」
掴んだ肩を強引に押し、加賀美は縁側から先程いた奥座敷へと、優希を上がらせた。
「おい、加賀美!」
素早い動きで忍者のように、加賀美は優希を連れ去る。いきなりのことで呆気に取られていた俺は、急いで二人の後を追いかけた。




