四話 渉くんの消えた日 ①
「浅羽、ホントに良かったのか?」
「うん。一人だと掃除も大変だろうし、親父も喜ぶと思うよ」
「それならいいのだが」
8月1日、今日は親父の命日。幸宮さんと、道でばったり会い、墓参りに行くというと、「危険だから」という理由で幸宮さんもついてきた。危険も何もないと思ったけど、一人で一年の汚れを掃除するのも大変かと思い、手伝ってもらうことにしたのだ。
幸宮さんは、夏服らしく、灰色のスカートに、白の半袖Tシャツを着ていて、とても可愛らしかった。その肩に斜めに掛けている茶色い小さなバッグには、何が入っているのだろうか?
親父の墓は、家から徒歩一時間の場所にある。ちょっとした運動だ。
俺と幸宮さんは、夏の照り返す地面に汗を拭い、途中コンビニで休憩をとりながら、墓地の入り口へと辿り着いていた。
墓地に着くと、周りの木々が暑さを少しだけ和らげてくれる。
蝉の鳴き声が、静かな墓地に響き渡っていた。
幸宮さんは入り口の門の前で立ち止まり、少しだけ辺りの様子を伺った。
「随分こじんまりとした墓地だな。……これなら大丈夫か……」
「だから危険なんて何もないって……」
俺がそう言った瞬間。
バサ! ガシャ!
何かを擦る音が俺と幸宮さんの耳に届く。
目の前を見ると、子供が何やら葉っぱのついた木の枝で墓石を叩いていた。
「あ!」
俺はすぐさまその男の子に近寄る。小学一年生くらいだろうか?
「君、駄目だよ! いたずらしちゃ!」
注意すると、男の子は、顔をくしゃくしゃに真っ赤にし、枝を俺に投げ捨てた。
「あ! こら!」
男の子は俺の横を通り過ぎ、振り返りもせず走って行ってしまった。そんな男の子を横目で見送り、次に俺は墓石の上に目をやる。
「君も──そんなとこに座ってたら駄目だよ」
俺は墓石の上に座る、空を見上げて足をぶらぶらさせている男の子に言った。
「え? ボクのこと?」
「君以外いないでしょ」
その小さい体で、高い墓石にどうやって登ったのだろうか?
〖お兄ちゃん、ボクのこと見えるの?〗
「え?」
よく見ると、その男の子は半透明に透けていた。
「浅羽、その子は……」
「え、まさか……」
〖あのね、ボク、死んじゃったみたいなんだよね〗
墓石からふわっと飛び降り、俺を見上げるその子は、先程の子供と同じくらいに見えた。こんな小さい子が……。
〖誰もボクのこと気付かなくて……お父さんもお母さんも……大樹くんも……〗
「大樹くんってさっきのいたずらしてた子?」
〖いたずらじゃないよ!〗
そういうと男の子は俯いて、
〖ボクが悪いんだ、ボクが……〗
それ以上 下を向いて、押し黙る男の子。
「浅羽、どうするんだ?」
幸宮さんが俺に耳打ちした。
「どうするって?」
「こういう成仏していない場合、悪霊になる可能性が僅かながらある。この世に未練が残っていたらな」
「え? それってヤバイんじゃ……」
「だからなるべく話を聞き、成仏へ導いてやるのも、我が組織の役目だ」
「俺やるよ」
「大変だぞ?」
「うん、でも、ほっとけないし……。こんな小さい子……」
「そうか……」
そういうと幸宮さんは、男の子の背丈に合わせてしゃがみこんだ。
「君はこれからどうしたい?」
男の子は顔を上げ、俺と幸宮さんの顔を交互に見ると、笑顔を向ける。
〖ボク、渉! 良かった! ボクのこと見える人がいて!〗
「じゃあ渉くんは、事故で死んじゃったんだ」
俺は墓石に水をかけ、磨いていた。
俺と幸宮さんは本来の目的、“親父の墓参り”をしながら渉くんの話を横で聞く。
〖うん。信号は青だったのに……〗
「そっか……」
こういう話を聞くと、俺は何て言っていいか分からない……。俺の親父も……。
「──俺の親父も、事故で死んだんだ。対向車線から車がはみ出してきて……」
〖そうなんだ〗
渉くんはその場に座り込んだ。その横顔は、どことなく寂しそうだ。
俺は墓石を拭きあげると、親父の墓の前にしゃがみ、線香を立てた。
両手を合わせると、幸宮さんと渉くんも、目を閉じ、一緒に祈ってくれた。
「さて」
俺は立ち上がりながら、手拭いで顔の汗を拭い、渉くんに笑顔を向けた。
「これから渉くんの家に行こうか!」
〖え!?〗
「ちょっ、浅羽! いきなり家というのは……」
「でもご両親にも話し聞いた方がいいかなって」
「しかし…」
困惑する幸宮さん。何か家に行ったらまずいことでもあるのだろうか?
〖でも僕、ここから外に出れないんだ。ここの中だけなら自由に動けるんだけど……〗
渉くんは少し考え込んだ後、
〖お兄ちゃん、ちょっとお願いしてもいい?〗
と、俺に耳打ちをした。




