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キチガイの宴。

これはキチガイ小説です。探偵ものではないんで犯人とかはすぐ、あっけなく明かします、ご了承してください。

 視点――――如月このえ

 


 赤いドームの五階にある屋上へと続くドアの前に如月このえこと私はいます。

 何故ここに居るの? と言われたら、人を探すためです。それにも疑問があるかもしれませんね、普通屋上なんかに人なんていません。ですが、私は安易に考えた結果、全体を見渡せるここが一番都合がいいと思い、そして特に迷いもせずに足を運んだわけであります。それに私は眼だけはいいので、遠くからでも人の見分けが付くかなっと思ったこともここに来た一つの要因です。

 あと、一度ここに自殺のために来た時に見渡たした景色が、まるで私を夢の国に迷い込ませたかのように思わせる効果があったからです。綺麗ではなく、不安定。そんな現実には決してない未完成の眺めが、何か、私には強烈的で、どういうわけか気に入ってしまったのです。風が透き通る感じ、自由になった感じ、そういうのがここにはあると思います。でも、風は少しもありませんけどね。

 とりあえず、何となく開けずにいたドアを開け、屋上に出ました。生前の世界では、違う場所に出た瞬間に感じる、風が気持ちいとか、温度が変わって気分爽快っ! とか感じるところもあったかもしれないですけど、どうやらこの世界ではそういうのは一切ないようです。多分神様がサボって作ったからだと私は思います。でも、この世界は生前の世界、現世? よりはなんとなく好きです。

でも、私が思うこの世界の好きなところは、人が少ないところですけど。

 とりあえず、中学生の写生会で描いてあるような幼稚な空なので、解放感が屋上にしては少ないのですが、こういう周りすべてが見渡せれるところに来たら両手をこれでもかってくらい思いっきり上げる、つまりは伸びをしたくなるので、その欲求に負けてついついやってしまいます。

 生前、精神病院に通っていて、診察が終わった後に、病院の自動ドアを出てすぐこれをしたら、ちょうど、精神病院に入ろうとしていたおじさんに思いっきり胸を見られたのが原因で控えていましたが、それをついに解禁しました。一度死んでみると、恥ずかしいから、とかそういう理由が一気にどうでも良くなりますね。

 思いっきり伸びを堪能した後に、あたりを見渡しました。ドームの屋上は三十メートル四方くらいの広さがあって、屋上は思ったよりもきっちりしていて、手すりさえあればどこにでもあるような屋上だと思います、でも、肝心の手すりが無いのはおかしいと思いますけどね。

 このドームは半球よりは球体の上と下をちょん切った感じで、上より下のが深く切ってるから何となく半球にも見えます。でも、屋上まで赤色一色なのが、屋上の爽快感を大幅に損ねてしまうので、色は、青色とか、そういう清々しい色が望ましいと、適当に作った神様に文句を言いたくなります。

 手すりが無いので、落ちないように気を付けながら、人がいないか探そうと思います。まず、遠くをくるっと見回したけれど誰も見つけることができませんでした。屋上に来たのは失敗だったのかな? と思い下を見たら、入り口に人を二人見つけました。えっと、片方は名前を忘れたけど、目のくまの凄い男の人で、もう一人は天野さん。天野さんにはさっき酷いことを言っちゃったな。

昔から必死になると見境がなくなってしまうのが私の悪い癖だと自覚しています。

 でも、もう直す気すらなくなっています。これも私の悪い癖だと思います。すぐに諦めてしまう。

 ふと、声がした。それは脳みそに直接語りかけてきます。

「「そろそろ俺に代わってくれよ」」

 あ、また来ました。これが私の一番の死にたい理由です。この頭の中にいる獣に私の体は乗っ取られてしまうのです。

「駄目っ、私は一度自殺した時にもうあなたとは生きたくないって決意したの! あなたのせいで私が変な目で見られるのは嫌なの! 分かってよ!」

「「うるせえっ、俺が代わるって言ったら代わるんだよ」」

 抵抗をしてみたのだが、意識が薄らいでいき、また負けてしまったと思ってしまう。いつから私は頭の中に獣を飼っていたのでしょうか? 薄らいでいく感覚に身を委ねながらそんなことを思っていました。

 私が幼い時に、両親が事故で死にました。私はそれを目の当たりにしてしまい、脳が、内臓が、血があふれ出てくるのを間近で見ていました。交通事故だったそうです。

 それから、私はショックだったのか長い間眠っていました。そのとき私は長い夢を見ました。自分がいじめられる夢。そして、その最後には私が笑っていたのをよく覚えています。体は血で汚れ、いじめの主犯だった子の目にははさみが刺さっていました。

 長い夢から覚めると、白い部屋に居ました。その部屋には、警察官の人が何人もいました。そこで私は警察官の質問を懇切丁寧に、嘘なく答えました。警察官は困った顔をしていました。

 気が付くと私はどこかの部屋のベッドに縛り付けられていました。牢屋みたいな部屋。しばらくするとドアが開き、ナース服をきたお姉さんが大きな注射を持って私の方へ来ました。

 そこが精神病院で、私が二重人格だということを知ったのは、時間がたってからでした。

 思い出してみると、今は嫌で嫌で仕方がない私の中の獣も、本当は私のために生まれたものなのかなっと思いました。そう思うと、少しくらいは私の体を使ってもいいかなっと思ったりなんかして、抵抗はやめました。

 どうせ、ここには誰もいませんし。と思っていたら、背後から足音が聞こえました。誰かが屋上に向かっているようです。今来られるとお構いなしに人を襲ってしまう。危機を感じ、私の体のコックピットを奪うために、意識を強めました。意識を強めるとは変な言い方だと思うのですが、実際そんな感じで頑張っているので訂正する気にはなりません。

「「くそっ」」

 ガチャっというドア特有の音が聞こえるのと同時に、最後の力を振り絞って私の中の獣はその入ってきた人に襲いかかろうとします。

私の中の獣は尽きることのない破壊衝動を抱えています。そこには憎悪などない、と私は思います。それは純粋な壊したいという感情。ひょっとしたらそれも違うかもしれません。破壊をする、そうプログラムされただけの存在なのかも。

 ただ、この獣のせいで、何度も取り返しのつかない失敗をしてしまったので、無意識に自分の体を取り戻そうと意識をよりいっそう強くしました。

「…………っ」

 襲う寸前のところで体の支配権を取り戻しました。あと一瞬でも意識を取り戻すのが遅かったら、おそらくは入ってきた人を襲っていたように思えて、それを考えると背中に嫌な汗で流れた気がしました。何故か汗は流れていなかったので、私の神経が図太くなったのかな? とも思いました。

「こんにちは」

 スーツをきて、いつも笑い顔の笑顔がひきつる前に私は挨拶をしました。私が襲いかけた人は、自分の事を記憶喪失だと言った、感じのいい人でした。

「こ、こんにちは」

 ドアを開けて、いきなり私が襲いかかってきたのですから、少し驚いています。驚かした本人が言うと少し変な気分ですが。

 気まずくなってしまいそうだったので、先に私から話しかけました。いい天気ですね、と言いそうだったけれど、のどに出かかったところで抑え、そのまま、頭が真っ白になってしまった状態で言葉を発しました。私が。

「どうして屋上に?」

 何かの犯人みたいに言ってしまったのでものすごく恥ずかしく、赤面しそうになったけど、基本感情が顔に出ない性質のせいか、眉ひとつ動かさずにできて本当に良かったと思います。

「なんとなくだよ、下に居たら屋上に君が上がっていく姿が見えたからね。迷惑だったかな?」

 彼が教科書に載ってそうな綺麗な笑みを瞬時に作ったものだから、この人は信用できなさそうだっと思ってしまいました。こういう時に、笑うのがうまい人という感想が抱けない自分が何か負け犬のように思えて可笑しかったです。

「迷惑って、そんな事ありませんし、どちらかというか……」

 話しながら気づいてしまいました。近っ! 近すぎる! 私とこの記憶喪失の人との間がセンチメートルの世界だったことに気付いて、そう思ったら既に体が動いてしまい、無言で、まるで彼を避けるように逃げてしまいました。もの凄い失礼な気もしたけど、彼は相変わらずののっぺら笑顔だったので少し安心。

「うん、近かったね」

 私の心中を察したかのように振る舞ってくれて、そしてそれは何故か私にはもの凄く恥ずかしくて、今度こそは顔に出てしまったかもしれません。しかも、そう思えば思うほどに恥ずかしさは増加していき、まるでかのデフレスパイラルのような負の連鎖でした。

「すーーーっ、はーーーっ、すーーっふうっ」

 声に出るくらいに深呼吸をして心を落ち着かせようとしました。しかし、その行動も不自然だなっと一瞬心の片隅で思ってしまい、そう思ったら最後、また恥ずかしさが込み上げ来てしまいました。

 どうすればいいんですかっ! 心の声が木霊する。空しく、虚しく。

「取り乱してしまいました」

 私は彼に謝罪しました。それを笑っていいよ、気にしてないよって返されるので、こっちは気にしてるんだよっと言いたくなりましたが、我慢します。

「一つ質問いいかな?」

 唐突に、彼がそんなことを聞いてきました。

「はい、何ですか?」

 ほのぼのとしていた空気、それは私だけが感じていたものかもしれませんが、それが彼の質問によって、無残にも砕け散りました。

「人を殺した感覚ってどうでした?」

 彼は笑っていた。



 視点――――主人公


 まだ俺は知らなかった。

 空見ちゃんと神経衰弱をしながら考えていたある事、殺しはまだ続くという予感が当たっているなんて思いもしなかった。いや、思いたくなかっただけかもしれない。

 穏やかな日常を望んでいただけかもしれない。

 今のこの時間、何もしてないけど安心できる時間。そういう時間が少しだけでもいいから欲しかった。できるだけ考えないようにしても、人の死を一度見てしまうと、記憶に深く染みついてしまって、何をしていても考えてしまう。

 後悔してしまう。もし俺があの時、違うことをしてたらって誰もがするように。

 ようやく俺も、空見ちゃんも、少しずつ手持ちのカードが増えてきたころドアをノックする音が聞こえた。

 とっさにナイフを隠し持ち、入っていいですよと歓迎する。ナイフなんてもってどうするつもりなんだ? 俺は。

 開いたドアの向こうに見えたのは、個性のない十人目の女の子だった。

 俺は十人目が来たのが意外だった。



視点――――営業マンさん



 如月このえは僕の質問に妙に強張っていた。

 さっきまで女の子のするように恥ずかしがっていたけれど、僕の質問で顔色が悪くなる。眉間に皺をよせ、僕を警戒する。

 ああ、変だったかもしれないな。こう質問してしまうと、まるで僕が探偵で彼女が犯人のようじゃないかっと思い、反省。この空気をどうにか直さなければな。

「ごめんなさい。いや、だから君を取り押さえて拘束するなんて考えていませんからね」

 自然に僕は笑みを作る。笑顔が大事と知ってから、無表情で、感情希薄だった僕は笑うことを意識してやっていた。それを何度も繰り返すうちに、自然に笑みが出てくるようになった。しかし、どうやらこの世の中には笑っていい場所と笑ってはいけない場所があるらしい。それは僕にはまったくと言っていいほど分からない。

 空気が読めない。いわゆるKYという奴なのだろうか。

「どうして私が殺したって知ってたの?」

 僕がせっかく弁明して、君を犯人的な立場から回復させてあげたのに、如月さんはまた犯人になろうとする。

「その反応は本当に殺したんだね」

 どうやら、つられて僕の反応も探偵っぽくなってしまった。何故だろう? これはパターン化されているのか? だから無意識に僕はこんな言葉を返してしまったのか?

 何となく嘘をつくことにした。

「僕は死体を見つけた時から、何となく、犯人探しで楽しいから会った人すべてにこれを言ってるのですが、反応がもろに出るものですね」

 おっと、あなたが犯人だって、皆に言いふらしてあなたの立場を悪くしようだなんて思いませんよ。いや、しませんよ。

「じゃあ、何が目的で私に近づいたのですか?」

「あなたが屋上に上がっていくのが見えて、何となく……ですよ」

 いろいろな所に嘘をばらまく。嘘が多すぎて自分で言ってもわけが分からなくなりそうだ。

「……嘘ですよね?」

「はい」

 しまった。根が正直者のせいで、答えてしまった。嘘吐きになるのも難しいですね。

 仕方がない、正直に答えますか。

「人を殺した感覚ってのが聞きたかっただけですよ」

 多分僕は笑っていたのだろう。自分では、笑ったことに気付くことは難しい。

「どうして?」

 如月さんは疑問を投げかける。その質問にも僕は正直に答える。

「他人に人を殺した感想を聞いてみたかっただけ。それだけですよ」

 僕は昔から自分の欲求が極端に少なかった。けど、一度欲しいと思ったら意地でも手に入れたい。僕は今、如月さんが人を殺してどういう感想を抱いたのかが知りたい。

 本当にそれだけだった。



 視点――――如月このえ



 一見普通の人に見えた彼は、異常でした。

 彼は常に笑顔で、私はその笑顔に恐怖しました。感情が一片たりとも読み取れません。それだけでも恐れるに値します。表情が変わらない人、人間味の無い人と接するのは、精神病院に通っていた私にも初めてでした。

 人は初めて出会うものがあると、まず恐怖します。だから、私が恐怖してしまうのは仕方がない事です。

「私からそれを聞いて、どうするつもりですか?」

 同じような問いに同じような答えを返してよかったのでしょうか。いや、もしかしたら、彼はそれを望んではいなかったかもしれません。

私はその恐怖によって死にたいという気持ちすら忘れて、ただ怯えています。

「どうするつもりもないですよ。今のところ」

 まだ彼は笑顔で話しています。私は答えた方がいいと自分に言い聞かせ、どうにか声を出します。

「特に何も感じることは……なかった……です」

 その私の答えにも彼は笑顔のまま。それは彼の望んだ答えだったのでしょうか、それが不安で不安で仕方がなくなります。

 どうしてここまで私は恐怖しているのでしょうか。例え殺害現場を見られてもいいじゃないですか。ここには警察なんていないんですし、困ることは少ないはずです。

 でも、そう言い聞かせても不安は、底知れないほどの恐怖は拭いきることは出来ません。拭うどころか恐怖はつ折っていく一方です。

「「怖いなら俺と変われ、お前を恐怖から救ってやる」」

 頭の中から、嫌な声が聞こえました。獣のような声。おぞましい声。

普段はこの声に悩まされ、挙句の果てに自殺の直接的原因であるこの声です。私はこの声が大っ嫌いです。

なのに、この時はそれが頼もしくも感じれました。

 そして私は多分初めて、私は自分の意志で自分の体を獣に渡しました。

「「聞き分けがいいな! じゃあ、そのお礼に助けてやる!」」

 獣は叫びます。私の中で、私に向かって。

 変わると同時に私の体は彼に襲いかかります。

 次の瞬間私は彼がスーツの中に手を入れ、隠していた何かをつかんだのが見えました。危ないと思いました。しかし、私の体は止まることもなく彼に向かって駆けていきます。

 彼が隠していたのは、小刀でした。

それを慣れた手つきで、構えます。私を殺すために。

 体は私の意志とは無関係に動いています。でも、最期に気付きました。

 ああ、これで私は死ぬのか。だったら、これは私にとって幸せなんでしょう。

 よかった。

 次の瞬間に私は空を飛んで、そのまま落ちました。

「久しぶりに首を一発で落とせた」

 最後に見えた彼の顔も笑っていました。


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