主人公の名前はいつまでもつきません。
視点――――主人公
さすがの俺でも、ずっと行き当たりばったりなわけにはいかない。空見ちゃんといるが、おそらく彼女も行き当たりばったり属性を持っているので、俺と一緒に行動していても、目的もなく、まるで浮幽霊のようにふらふら歩くだけだ。
最初のほうは、ただ何となく空見ちゃんナビにしたがって後をついて行っただけだったけど、体感時間(太陽もなく、夜にもならないので正真正銘腹時計に頼るしかない)一時間くらいたっても家にすら入らず、右に曲がり、左に曲がり、しまいにはUターンするなどの、言ってしまえば村人Aみたいな動きしかしていなかったので、それを打破するべく空見ちゃんの手を握り、一番近くにある家に入ることにした。
この世界の建物はドームを除いて、全てが白色の一階建て一軒家で、しかも、それだけじゃなくどの家も均等に並んでいるので、現在位置すら分からなくなる仕様である。まあ、それには解決方法があるが、大まかにしか分からないけど、赤色のドームからどれくらい離れたかなっ? てな感じで……それくらいしか分かりません。すみません。しかも、嫌なことにドームは綺麗な半円をしてやがる。これが意味するところは東西南北が分からない。
とりあえず二軒目にも入ってみたがどうやら、内装が一緒だったので探索は諦め、その二軒目に入ることにした。
家の中には、白色のシーツと白色の枕と白色の布団がシングルベッドに付属し、案の定、予想通りなことに皺も汚れも一切ない。シミとかあったらどうしようかと思った。
部屋にはベッド以外にはソファーが二つ、それに挟まれるように正方形の机があるだけだ。
そして、ここで予想外なことに、この世界で初めての娯楽用具を見つけてしまった。ずっとこの世界には暇を潰すものがないなと思い、必死になって考えていたが、まさか、こんな高性能な暇つぶし用具があるとは思わなかった。これは神の粋な計らいと言っても過言ではない。それはトランプだった。
トランプと言ったら普通何の遊びを思いつくだろうか、七並べにババ抜き、スピードや、神経衰弱もいいだろう。生前はよく大富豪で遊んだものだ。ブラックジャックも面白いし、ポーカーでは燃える戦いができる。他にも挙げたらキリがないほどのゲームをできるカード、それがトランプである。しかし、それだけじゃない。トランプの潜在能力はゲームの域に収まる事はない。トランプマジックと言葉になっているように、マジシャン業界では定番中の定番である。トランプは言ってしまえば、カードゲーム界の王様である。
トランプがあったという事実はとてもうれしいものであるが、果たして空見ちゃんと遊ぶことができるのだろうか、甚だ疑問である。
とりあえず透明なケースを開けてみるとやはりきちんと並んでいたので、シャッフルをする、シャッフルにもいくらかの種類があるが、俺はリフルシャッフルをすることにした。リフルシャッフルとはカードを半分にわけ、親指でこうぱらぱらっとカードが交互になるようにする方法である。これの気持ちいのは交互にしてからのカードをそろえる時のさーってやつだな。見てても楽しい、やっても楽しい。
それを見た空見ちゃんがおおっという表情になってくれたのがうれしかったので何度もリフルシャッフルをした。まあ、よく混ざるのでいいことである。そして、最後の締めに弾丸シャッフルをしてかっこつけようとしたら(弾丸シャッフルとは名前でイメージできるような感じの、言ってしまえば空中版リフルシャッフルである)盛大に失敗してしまった。
空見ちゃんはそれを見て小さく笑った。俺も笑っていた。
「空見ちゃん、トランプのゲームで知ってることある?」
最初にあった時、まったく無視しているのはただの無関心だっただけだった。空見ちゃんは話すことはないが聞くことはできる。
空見ちゃんは少しずつ俺の言葉に反応するようになってきてるのが、目で見て分かるのがうれしい。まあ、ロリコンじゃないので、過剰反応することはないがな。本当にロリコンじゃないぞ? 本当だぞ?
空見ちゃんは俺の質問にどう答えようか迷っていたのか、俺が弾丸シャッフルによってばらまいてしまったトランプを拾った時に、手を出してきた。多分、寄こせという意味だ。
少しずつ空見ちゃん解読レベルが上がってきた。レベルマックスになるのにはまだ道は険しいが。
そのレベルが最大になった時はきっと「わりとあなたのことが嫌いでした」とか、そういうことも分かるのだろう。……分かりたくねぇ。
渡したトランプを手に取ると、俺から離れた方のソファーに座り、机にトランプタワーを作ろうとしているのか、トランプを積み上げ始めた。それを見た俺は、隣の部屋からトランプを拝借して俺もトランプタワーを作ろうと思って立ち上がった。三十秒くらいで戻ってきたのだが、驚いたことに五十四枚でできる限界までのタワーができていた。俺が来たのに空見ちゃんが気付くと手を伸ばしてきた。その手には早くよこせよという意思が含まれていて恐ろしかった。
俺は渡すと同時に、近くの家のトランプを拝借して回ろうという決意を胸に走り出した。
走って、取って、走って、取って、持ちきれなくなったら戻って渡して、また走って……を繰り返した。
そして、気が付いた時には、机に乗る限界まで大きさのタワーができていた。それは俺の身長を超えている高さまでのタワーで、こういう実物を見たのが初めてだった俺は素直に感動した。
それはほんの少しの振動で壊れてしまうような、儚い芸術品であった。古来から日本人は儚いものを美としてとらえるところがあるとは聞いたことがあるが、ああ、こういう気持ちなら頷けると思った。
そして、タワーが無残にも崩れ去った。一瞬で、波のような音を立てながら。犯人は空見ちゃん自身だった。なんと彼女は自分で熱心に作ったタワーを右ストレートで破壊したのだ。
どうしてっ! と突っ込もうとしたが、空見ちゃんは清々しい笑顔をしてたので、それを止めた。
その笑顔は俺が先ほどに無理やり勝ち取ったものよりもはるかに子供らしく、可愛かった。
どうやら彼女は、儚いものを鑑賞するより、止めを刺すことを選んだようだ。自分で作ったものでも、ああ、もったいない。
まあ、空見ちゃんが楽しいなら俺も本望だけどね。
盛大に散らばったトランプを片付けようとしていると、空見ちゃんが机の上にカードを裏向きに並べていた。
「神経衰弱するの?」
大げさにこっくりと頷く。そして、手を大きく広げて、何か物欲しそうに俺を見る。
「まさか、ここに散らばっているすべてのカードでやるの?」
伝わったことがうれしいのか、もっと大きく首を縦に振る。まじかよ。覚えれっこねえよ。
「で、でも、覚えれないよ、こんないっぱい」
何せ、五十四枚どころか、五十四セットくらいあるからな。反論に無視をされたので仕方なくソファーに座って並べるのを手伝う。
並べるのになぜかトランプタワーを作るより時間がかかってしまったが、ようやく始まる。
俺が無言でいたら空見ちゃんがカードをめくった。どうやら空見ちゃんが先行のようだ。
まあ、時間だけが無限にありそうな世界だからいいかなっと思い俺も参戦することにしたけど、一つ気がかりなことがある。本当に殺人事件は終わったのか。
今、ベッドの上に置いてあるナイフをみてそう思う。
でも、俺には罠を張ることも、作戦を考えることも、犯人を疑うこともできない。俺にできるのは覚悟を決めることだけだ。
もしも、その犯人と対峙した時に、俺には何ができるのか。暴力すらもできない俺が、その時になって、主人公みたく殴って解決なんてできるはずもない。いいとこ、一緒に逃げることがベストだろう。いや、それしかできない気がする。それすらもできない気さえする。でも……みじめでも、命を救うことができるなら、かっこ悪くても構わない。
どうか神様、誰も死なない未来をどうか、俺たちにください。
……なんてね。




