薬中と少女。
視点――――不健康青少年
東西南北どこか分からないが、ドームの四つある大きな入口に黒沢大悟(不健康青少年)がドアにもたれかかって座っていた。
「何故かあるんだよな、クスリ……」
そういって黒沢(不健康青少年)は手に持っている注射を見る。
いろいろな種類を併用していたけど、今、持っているのは麻薬注射のこれだけだ。実は、パイプもあったんだが、一回分しか残ってなくて、今さっき使ってしまった。本来自分は吸引タイプしか使わないが、それがない今、麻薬友達からもらったこれを使うしかないな。そもそも、俺は注射が嫌いだったんだ。なんか、たくさん泣いた気がする。
使おうか、使うまいかじっと悩んでいた。
しばらくすると、とつとつと足音が聞こえる。注射を隠そうと思ったけど、死後の世界でそれも何か変なきがしたので止めた。
「あの、……こんにちは?」
周りに騒音が一切ないこの世界じゃなかったら聞き取れないような、小さな声で話しかけてきた。たしかこの女、天野、柚子? だった気がする。
「ああ、こんにちは、でいいのか?」
一応空は青色だが、太陽はないので昼ともいえない。この子がいつも以上に小さな声だったのは、自信がなかったせいかもしれない……と自分の中で結論付ける。
「はい、こんにちは、ですね」
薄く笑う。気力、活力が見えもしないので、隠れる必要すらないとか、そんな感じだ。いや、見えも隠れもしない、か?
そのまま、散歩中で俺なんかがいるところをさっさと通り過ぎて行くと思った。しかし、何故か彼女は立ち止まった。そして、こっち(つまりは俺の方だな)を見てくる。なんだ? このかっこでの説明が要らないだと? いるだろうが! ないと、こっちってどっち? てなるだろうがよ! え? ならない? 読者をなめるな? なんだよこの野郎、人の親切にケチつけやがって。…………はっ、俺はいったい……誰と会話してたのか?
そんなことよりもあれだ、何故彼女はここで立ち止まったのかを分析しなければいけない。おそらく、俺の前に立ち止まったということは俺に用がある確率が高いが、しかし、されども、そもそも、初対面に近い人に、用も糞もないと思う。……糞はないな。下品だな。まあ、とにかく、そんなことありえないはずである。が、現実に起きているのは何故か? 知るかぼけ!
「心の葛藤が長すぎじゃぼけっ」
神からのメッセージが俺の脳に直接インストールされた。すかさずアンインストールしようとしたけどできなかった。
麻薬のせいで頭がいかれているのでこんなに支離滅裂な文章になってしまっている。はいはい、設定設定。
どうやら、お上ならぬ、お神からの宣告を食らっちまったので、心の声を抑えることにする、ことはおそらくできないので、その時その時に一番気になった、及び思ったことを端的に書こうと思う。
「あの……」
この子おっぱい小さいな。
「その注射って」
何カップかな?
「麻薬、とかだったりするんですか?」
A? もしかしたらAA?
「……あの!」
いいな貧乳。
「ん?」
どうやら、ミニマムおっぱいが話しかけてきたようだ。
「……あの……」
「うん、これのこと?」
そう言って手に持っている注射を見せる。
「はい……」
もしかして興味があるのかな?
「もしかして欲しいの?」
おっぱいおっぱい。小っちゃいおっぱい。
「…………」
「なんで欲しいの?」
「欲しいとは言ってません」
そういうと俯き、ものすごく小さな声で言った。
「幸せになれるんですよね? 嫌なこと忘れることができるんですよね? それができるならちょっといいかなと思っただけです」
「そんなことないよ、こんなものに頼っても忘れたいことに限って覚えているものだよ」
うお、俺かっこいいこと言った。
「そうですか」
「だからさ、つらいことは忘れるよりも乗り越えた方がいいよ。例えそれがつらくても、周りの人を頼ってでも、ね。あと健康にもいいしね」
俺かっけえええええええ。
「…………はい」
おっぱいの小さい女は大抵心が強いから大丈夫だよ。
「……え?」
あ、今の声に出てしまった。
「おっ……ぱい? ちいさ……」
天野さんの頬に化学反応が起きて赤くなってしまったようだ。
「まあ、俺は小さい方が好きだよ。いや、大きいおっぱいなど、おっぱいとは認めん」
「……セクハラです」
「はいセクハラです」
やばいよ、小さなおっぱいの人には嫌われたくないよ。
「だから声に出てますって。あと小さい小さいって、気にしてるんですよ!」
「気にするな!」
「気にします!」
だから、おっぱいは小さい方がかわいいんだって。
「だ、か、ら、声に出てますって」
「セクハラだーーー」
「こっちのセリフですよ!」
セクハラって先に言った方がセクハラなんだよ。(馬鹿って先に言った方が馬鹿と同じ道理だと俺は信じてる)
「そんなわけないです。セクハラは先にした方がセクハラです」
「じゃあ後にセクハラした方は何?」
「……それってただの……はっ」
瞬時に顔を真っ赤にする天野さん。おやおや何を創造したのかな?
「……セクハラです」
「そうさ、セクハラさ」
何を言ってもきりがないことに気付いた天野さんは、むっという顔をした。
「ようやく分かったか! 俺を言葉で黙らせるのは不可能! ふははははは」
「むっ」
さすがに頭にきたのかこぶしを握り、変態っとか言いながら突っ込むのかと一瞬思ったけどそのまま天野ちゃんは何もしなかった。まだ彼女には自信が戻っていないようだ。
「別に殴ってもいいんだぞ? 俺はそんなことじゃ怒らない。いやむしろ殴られたら喜ぶぞ、きっと」
「べ、別に、暴力なんて女っぽくないかな? なんて思っただけです」
そうしてまた俯き、落ち込む天野さん。この人はほんと目を離すとすぐに落ち込んでいってしまう。そんなんじゃ、何もかもつまらなくなってしまう。
「……世の中には、実は楽しいものなんてないもんだ。でも楽しんで生きている奴が実際いる。どうしてだと思う?」
少し顔を上げて戸惑いながら口を小さく開いた。
「…………分かりません。どうしてでしょう」
言ってまた下を向く天野さん。
「俺はな、こう思うんだ。そいつらはな、自覚もなしに自分自身を騙しているんだ。だから、簡単に楽しいことを見つけ、実際それで、楽しい気分になれる。幸せを見つけるのがうまいんじゃなく、幸せを作る、いや、思い込むのがうまいんだ」
天野さんは頭の上に疑問符を浮かべると、自信なさそうに聞いてきた。
「私はそれが下手だと言いたいんですか?」
珍しく挑発的な発言に少し驚いたが、少し安心した。
「そうだ、天野ちゃん、君は物事を深く考えすぎなんだ。少しだけでも疑うことを止めてごらん、怖いかもしれないけど、少しは楽しいことが見つかるはずだから」
「……疑うことも止めることもできないと思いますし、それができたとしても、私なんかに幸せは訪れませんよ」
「いや、それは違うんじゃないか?」
俺は思ったことを思ったまま口にする。
「人間ってさ、幸せを求める生物だからさ、何もしなくても、どこに居ても見つけれるはずなんだ。作れるはずなんだ。自分にとっての幸せを」
「…………でも、あなたも、ここに、この世界にいるってことは、自殺したんでしょ?」
言ってはいけないことを言ってしまった。そう思ったのか、すぐに表情が後悔の色に染まる。
「自殺というかさ、俺の死因はそんなんじゃないんだ」
はあ、俺の死因……今思うと相当バカだな。
「オーバードーズ、クスリの過剰摂取で死にました、まさか死ぬとは思ってなかった」
俺が馬鹿だと思ったのか知らんが彼女は笑った。多分心から。
「あはっ、ははふっ、すみません。笑っちゃいけませんよね。でも、なんか自分が馬鹿みたいで、あはははは」
「どうせそんな奴に説教食らってた自分が悲しくなったんだろ? 図星だろ?」
「ち、違います。あははっ」
でも、いいことだ。天野ちゃんは笑ってくれた。人の不幸なんて笑ってやれ! それで元気になれるなら俺も本望だ。
「……はい」
そして、彼女は返事をした。どうやらまた俺の心の声が外に漏れていたらしい。
そして、俺を見る天野ちゃんは、さっきより明るい気がした。それは俺にとってもうれしいことだった。俺は貧乳の人には幸せでいて欲しいんだ。
「誰が貧乳ですか!」
今度こそ彼女は俺を殴った。それはもうパンチと呼べれる代物じゃないほど弱弱しかったけど、それでも俺はうれしかった。
「ぐはぁっ」
オーバーリアクションをとる俺。そのまま倒れようと思ったが予想外、ドームのドアに頭をぶつけた。
「あ痛っ」
「あっ、大丈夫ですか?」
すぐ心配そうに駆け寄ってきた。それがあまりにもおかしかったので自然に笑いが込み上げてきた。
頑張って幸せになれよ。自殺した人が集まる世界でもきっとできるから。
天野ちゃんが手を差し伸べてくれる。それは、小さな手で、少し震えていた。男の人が怖いのかもしれない。でも、精いっぱいの勇気を振り絞って、手を伸ばしてくれた。
それを掴むにはいささか遠かったけど、無理やりその手を取った。




