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【新改訂版】T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第3章 混沌 T-DAYプラス1日〜5日

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203Y年2月6日 ソウル

2月6日

大韓民国 ソウル特別市 龍山(ヨンサン)区 合同参謀本部

ソウルの中心部、国防部が所在する龍山区の官庁街は冷たい朝霧の中に沈んでいた。南山(ナムサン)のタワーは灰色の雲に覆われ、漢江(ハンガン)の鉄橋を行き交う通勤電車や車の列も張り詰めた気配を帯びている。龍山の一角、大韓民国国軍・合同参謀本部の地下深く、コンクリートと鋼鉄で防護されたバンカー内の戦闘指揮室では、モニターを見つめる将校たちの間に重い沈黙が流れていた。

大型マルチスクリーンの前で、合同参謀議長であるカン大将は情報司令部から上がってきたファイルを凝視していた。

発端は、東京の防衛省から水面下でもたらされた疑念と照会要求だった。

日本最西端の与那国島を制圧した武装勢力が北朝鮮製のストライカー型装甲車やポンゲ系地対空ミサイルを用い、無線で朝鮮語を交信しているという事実。

韓国軍情報司令部は在韓米軍司令部(U S F K)と連携し、丸一日、アナリスト陣とスーパーコンピュータ、AI解析システムを総動員して過去数カ月分の監視記録を洗い直した。通信情報(SIGINT)、電子情報(ELINT)、画像情報(IMINT)、人的情報(HUMINT)、そして公開情報(OSINT)に至るあらゆるデータの精査だ。米韓連合軍と自衛隊の監視網は、平時でも北朝鮮軍の動態を中隊規模まで把握できる能力を持つ。

その解析作業の末、導き出された結論は、予想外にあっさりと輪郭を現していた。


「議長、精査の結果です」


情報司令部の准将が、声を落として切り出した。


「過去数カ月間、北韓の特殊作戦軍第11軍団――いわゆる『暴風軍団』の複数の大隊において、不自然な人員の欠損が確認されました。演習や訓練を口実に移動した際、多い時でも小隊規模、十数名から数十名単位の人員が基地へ戻らなかったケースが断続的に発生しています。それらの痕跡を衛星写真と鉄道運行データで追跡したところ、最終的に中国国境の新義州(シニジュ)へ集結していた事実が判明しました」

「……新義州から、中国領内へ送り出されたということか」

「はい。武器や装備ごと中国の輸送船に載せられ、琉球の離島へ運ばれたと見るのが最も論理的です。つまり、北韓軍の兵員と装備が、日本領土に対する直接的な侵奪作戦に投入されている」


カン議長は眉間を揉み、重い息を吐き出した。


「しかし、北韓は絶対に認めんだろうな。認めれば、台湾海峡へ米軍が介入した際、中国と並ぶ共同参戦国として米国の報復の直接の標的になる。北京にとっても平壌にとっても、正体を曖昧にして日本の足を止めることが最大の目的なのだから」


北が中国の侵略の片棒を担ぎ、その身代わりとして日本を揺さぶっている。北が得る見返りは莫大なカネか、石油精製品のようなエネルギーか、あるいは兵器、軍事技術か。いずれにせよ、北が韓国にもたらす脅威の増大も避けられないだろう。しかし、日本やアメリカが北朝鮮の中国支援を力づくでやめさせようとすれば、それはそれで韓国を巻き込む朝鮮半島での大規模な戦争につながりかねない。その構図に頭を抱えかけた矢先、通信室のコンソールが一斉にけたたましい警告音を放ち始めた。


「……議長! 前方より緊急報告です!」


情報将校が血相を変えて立ち上がり、音声波形と部隊動態のデータをメインスクリーンに展開した。


「開城(ケソン)方面の北韓第2軍団、および沙里院《サリウォン》方面の第4軍団において、戦時暗号を用いたバースト通信が急増しています。『暴風』、全軍進撃の待機シグナルです!」

「何だと? 後方部隊の動きはどうなっている!」

「平壌の第3軍団、咸鏡道の第6、第7軍団の主力が列車と車両での南下を開始しました。第105戦車師団の一部が、すでに開城の集結点へ到達したことを確認……全正面での南進を前提とした兵力展開です!」


報告の通り、北緯38度線の非武装地帯(DMZ)の向こう側では、巨大な軍事機構の歯車が一斉に噛み合っていた。

西部戦線、かつて南北経済協力の事業地であった開城工業団地のコンクリート建築群が夜霧の中に沈む中、朝鮮人民軍の精鋭、近衛ソウル柳京洙(リュギョンス)第105戦車師団の縦隊が国道を南へと埋めていた。先頭を進む「先軍号(ソングンホ)」戦車の車体は暗緑色、砂褐色、濃茶色の3色迷彩の上から凍結防止用グリスと白い石灰泥で塗られている。旧ソ連製T-90を思わせる丸みを帯びた鋳造砲塔には2基の対戦車ミサイルランチャーと14.5ミリ重機関銃が増設され、車体前面と砲塔側面にはボルト留めされたレンガ状の爆発反応装甲(E R A)が並ぶ。V型12気筒ディーゼルエンジンが黒煙を吐き出し、ピクセル迷彩とヘルメットに身を包んだ歩兵たちを乗せた平らな車体のVTT-323装甲兵員輸送車を従えていた。


中部戦線、鉄原(チョルウォン)から金化(キムファ)盆地への接近経路では、峻険な山岳地帯のクヌギやアカマツの枯れ木が寒風に揺れる中、岩肌を削った洞窟陣地から砲兵部隊が姿を現していた。砲身長約15メートルという長い砲身を車体にマウントし、後部に反動吸収用の駐退機と大型駐鋤を備えた170ミリ自走砲「谷山(コクサン)」や、6×6大型トラックの車体に鉄格子状のロケット射撃枠22本を搭載した240ミリ多連装ロケット砲が、南側の市街地方向へ砲列を敷いている。

さらに東部戦線では金剛山(クムガンサン)の岩峰がそびえ、日本海の潮騒が届く中、第4軍団の軽歩兵たちが標高1000メートルを超える太白(テベク)山脈の尾根筋を伝い降りていた。山地の岩肌や枯草に紛れる茶系統の迷彩服を着た彼らの背中には、弾薬箱や対戦車ミサイル「火鳥(ファチョン)」のランチャー、伸縮式のホイップアンテナや小型の八木・宇田アンテナが突き出すバックパック型電子戦器材が収まっている。彼らはロシアからの技術や資金援助を受けて整備されたデジタル迷彩やドローン制御端末を携え、使い込まれた88式自動小銃を手に前進していた。

龍山の司令室では、240キロの軍事境界線全域から悲鳴のような警報が相次いでいた。


「坡州(パジュ)、第1歩兵師団前方警戒所(G P)に対し、北韓軍の高射機銃による射撃が発生! 我が第1師団捜索大隊が重機関銃で応射、交戦中です!」

「江原道、第7歩兵師団セクターでも迫撃砲弾の着弾を確認! 師団砲兵のK9自走砲が対砲兵射撃を開始しました!」

「東海《トンヘ》(日本海)および西海《ソヘ》(黄海)で、北の艦隊が外海へ大挙進出しています!」


釜山(プサン)の海軍作戦司令部からの報告が重なる。


「東海側の楽園(ナグォン)基地から、巡航ミサイル『火矢-2』搭載とみられる鴨緑(アムノク)級ミサイル・コルベットが出撃」

「新浦(シンポ)のドックから、サンオ級潜水艦やヨノ級潜水艇が次々と出港」

「潜水艦発射(S L )弾道ミサイル( B M)『北極星2』搭載『金君玉(キムグンオク)英雄艦』も外海へ移動中」

「西海側の海州(ヘジュ)や南浦(ナムポ)からも、ロメオ級潜水艦が大規模出航しています」


烏山《オサン》の空軍作戦司令部からも報告が続いた。


「葛麻(カルマ)基地からMiG-29が離陸」

「黄州(ファンジュ)や順安(スナン)からも戦闘機が発進し、南下中」

「忠州(チュンジュ)のKF-16と大邱(テグ)のF-15Kが緊急発進し、軍事境界線上空で迎撃態勢に入りました。有効射程内での対峙が続いています」


「西海北方限界線(N L L)では、北の海岸砲が砲門を開放。延坪島(ヨンピョンド)近海で哨戒艇が敵ノンゴ級ミサイル艇からレーダー照射を受けました」

「警察庁より、仁川(インチョン)の海岸でゴムボートと水中スクーターの遺棄が確認されたとの情報。工作員の首都圏浸透の恐れがあります」


その時、司令室のアラートが一段高く鳴り響いた。


「順安(スナン)付近より弾道ミサイル発射! 火星12型改良型、中距離弾道ミサイルと推定。……方位東、日本列島・北海道方面へ飛翔中。速度マッハ15を記録!」

「日本越えか……これで米日の防衛アセットは南西諸島と北の二正面へ引き裂かれる」


カン議長は、スクリーンに描かれる弾道ミサイルの放物線を睨み据えた。


「全軍に『珍島犬(チンドッケ)1号』を発令せよ。第7機動軍団は北進反攻準備、首都防衛司令部はソウル防衛および民間防衛計画の即応体制を敷け」


指令は直ちに軍用回線を通じて全土の前方師団へと伝達された。鉄原の平野では、第5歩兵師団のK2戦車「黒豹」がエンジン音を響かせ、前方の山並みへ砲身を向けた。

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