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【新改訂版】T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第2章 封鎖 T-DAY プラス0〜1日

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203Y年2月4日 台北

203Y年2月4日

中華民国/台湾 台北市大安区 国立台湾大学

旧暦の正月、旧暦の正月、春節。

本来であれば爆竹の乾いた破裂音が路地に響き渡り、軒先には鮮やかな紅色の「春聯」が躍るはずの台北は、底冷えのする肌寒さと、どことなく落ち着かない空気に包まれていた。連休に入った学内の食堂や売店は大半が休業しており、なんとなく一人で部屋にいるのが落ち着かない留学生や現地の学生たちが、留学生寮1階のラウンジに自然と集まっている。

桜木祐希は、コンビニで買い込んできた温かい豆乳と蛋餅の紙パックをテーブルに広げ、向かいに座る廖雨婷、そして隣でマグカップを抱えるマークとともに、静かな朝食をとっていた。

壁の大型テレビモニターでは朝の報道番組が流れている。


『――国防部によりますと、空母やミサイル駆逐艦を含む中共の艦艇多数が台湾周辺の海域で確認――専門家は「春節期間に合わせた大規模軍事演習の予兆ではないか」と分析しています。国防部は警戒監視態勢を維持しつつ、市民に対し冷静な対応を呼びかけています――』


祐希は手元のスマートフォンに目を落とした。

ここ数カ月、中国の軍事演習の頻度が増し、海底ケーブル切断やサイバー攻撃といった不穏なニュースが流れるたび、外国人観光客の足は鈍り、警戒心の強い富裕層が国外退避を始めるなど、社会不安の兆候はじわりと広がっていた。

祐希たちとて、何も感じていなかったわけではない。深刻化する台湾社会の分断、SNSに氾濫するデマ、先日台北の街に鳴り響いた防空警報――日常を侵食するハイブリッド戦の不気味さに、そこはかとない強い不安感や拭い去れない違和感はずっと抱え続けていた。だが、その不安と「今すぐ荷物をまとめて台湾から脱出しなければならない」という切迫した危機感との間には、深い溝が横たわっていた。

何十年も大陸からの軍事的な恫喝に晒され続けてきた台湾市民の大半も、驚くほど冷静――悪く言えば麻痺していた。「狼が来た」と叫ばれ続けて半世紀。今回もまた派手な演習をぶち上げて威嚇し、しばらくすれば何事もなかったかのように平時に戻るのだろう。そんな慣れと諦観が、台北の街筋に分厚く漂っていた。

祐希は、画面に届いている日本の母親からのメッセージを眺めてはため息をついていた。


『お願いだから早く帰ってきなさい。テレビで台湾周辺のことが連日報道されていて、お母さん心配で眠れないのよ』


だが、チケットだって春節のラッシュと重なって直行便は来週まで満席なのだ。金持ちや一部の駐在員が念のために出国を早めたせいで片道の航空券代は高騰している。しかしキャンパスの台湾人の友人たちはみんな「いつもの共産党のこけおどしだよ」と笑っていた。


「……また中国の軍事演習のニュースね」


雨婷がカップの温かいお茶に口をつけ、眉をひそめた。


「父もここ数日、ずっと役所から帰ってこないの。電話しても『業務が立て込んでいる』としか言わないし」

「まあ、いつもの定例行事だろ」


マークがトーストをかじりながら肩をすくめる。


「中国の艦隊が外をうろつくのは今に始まったことじゃない。派手に船を並べて、自分たちの強さをアピールしたいだけさ」


その時だった。

番組の途中で甲高い警告音が鳴り響き、画面が暗転した。赤と黄色の縞模様のテロップが画面上部を激しく点滅する。


【速報:日本最西端・与那国島で異変 国籍不明の武装勢力が上陸か】


キャスターが上ずった声で原稿を読み始めた。


『――臨時ニュースをお伝えします。今朝未明、台湾から東へわずか110キロメートルに位置する日本沖縄県与那国島において、正体不明の武装集団が島を制圧した模様です。現在、島との通常通信は途絶していますが、衛星回線を通じて全世界へ向けて発信された犯行声明映像が確認されました。映像をご覧ください』


画面が切り替わった。


青い見慣れない旗が掲げられ、黒いバラクラバで顔を覆った濃紺の戦闘服の男がカメラを見据えている。そして、淀みのない自然な日本語で淡々と語り始めた。


『……我々は琉球の人民であり、本日ここに「琉球共和国臨時政府」の樹立を宣言する。我々は、長年にわたる日本政府の圧政と、島々を戦場に変えようとする軍事要塞化から、琉球の神聖な領土の一部である与那国島を解放した……』


「……な、なんだこれ……?」


祐希は息を呑んだ。あまりに荒唐無稽で現実離れした光景に頭の処理が追いつかない。


その瞬間だった。再び画面が暗転し、激しいノイズとともに切り替わった。


『放送の途中ですがここで北京からの生中継です!』


映し出されたのは、背後に鮮やかな藍色のパネルと巨大な五星紅旗が掲げられ、仏頂面の報道官がマイクを確認しながら演壇に立っている、中国外交部の定例記者会見場だった。


『中華人民共和国中央人民政府を代表し、緊急の重大発表を行う。我が国政府は先ほど、我が国の台湾省において、致死率および伝染性が極めて高い未知の悪性感染症が発生したことを確認した』


ラウンジが再び凍りついた。


『中国政府は、我が国の国内で発生したこの脅威を封じ込めるという国際的な責任を果たし、世界の人々の健康を守るため、関連する国際法規、その他の人道的慣習、並びに中華人民共和国伝染病予防医療法及び海警法その他の関係国内法令に基づき、必要最小限の防疫措置を講じることを決定した』

『本日より、中国国防部の許可なく、台湾省すなわち台湾島とその付属島嶼の全て、福建省の金門島、馬祖列島及び広東省の東沙諸島、並びにこれら周囲の領海並びに領空へ、船舶および航空機が進入することは、その国籍並びに目的を問わず、一切禁止する』

『さらに、以上の区域から出域を試みる全ての船舶および航空機は、中国人民解放軍および海警局の部隊によって、中国大陸沿岸の指定される港湾へ回航され、2週間の厳格な隔離検疫を受けるものとする』


報道官は、一言一句を噛み締めるように続けた。

『この隔離措置に違反し、世界人類の生命と健康を危機にさらす不法な動きに対しては、人民解放軍および海警局が、人類を守るという崇高な義務を果たすため、躊躇なく武器を使用する用意がある。以上である』


画面が暗転した。


「……感染症? ふざけるな、そんな話聞いたこともないわ!」

雨婷が立ち上がり、絶叫した。その顔は怒りと、それを遥かに凌駕する恐怖で真っ白に染まっていた。


「防疫の名目で、私たちを檻に閉じ込めるつもりよ!」



【日本語仮訳】(新華通訊社Webサイト掲載)

203Y年2月5日 

中華人民共和国国務院台湾事務弁公室、外交部、国防部及び中央軍事委員会による共同声明


中華人民共和国中央人民政府は、わが国台湾省における深刻な公共衛生上の危機に対し、人民至上、生命至上という一貫した理念のもと、同胞と世界人類の生命と安全を守るため、最大限の努力を傾けてきた。軍の実力を用いて台湾省周辺の交通を制限し、わが省人民の日常生活に不便を強いる事態に至ったことは、誠に遺憾と言わざるを得ない。

しかしながら、現在台湾省等を不法に占拠・支配している「台北当局」内部の極少数の分裂勢力は、わが国の防疫関連法規および中央政府の指示に従わず、科学的な防疫措置を拒絶し続けている。こうした無責任な態度は、台湾同胞をさらなる危険に晒すのみならず、祖国全体の安全に対する重大な脅威となっている。ゆえに、中央政府は国家の主権を堅持し人民を保護するため、やむを得ず、「台北当局」が現在不法に占拠している地域すなわち台湾省の全域及び福建省の金門県、連江県、広東省の汕尾《シャンウェイ》市のうち東沙諸島の区域に対し、中華人民共和国憲法の規定及び全国人民代表大会常務委員会の決定に基づいて緊急状態を宣言し、軍事管制を敷くに至ったものである。

ここに、中央人民政府は台北当局に対し、以下の通り厳粛に通知する。


1.台北当局が、その支配する全ての地域が中華人民共和国中央人民政府の直接的な行政管理下に入ることを認め、かつ、台北当局のいわゆる「国軍」、「警察」その他現在台北当局の支配地域内に存在する全ての武装勢力が、直ちに中国人民解放軍東部戦区司令員の指揮統制下に編入されることに同意するならば、わが中央政府による当該地域での実効的な防疫措置の実施が可能となるため、中央政府は直ちに大陸経由による人道支援物資、医療設備、生活必需品、およびエネルギー資源の優先的な搬入を開始する。また、半導体、電子部品その他台湾省から世界各国に輸出されていた重要物資についても、適切な消毒ないし防疫措置の上で、輸出の再開を認める。

2.台北当局内部の分裂勢力に対し、改めて警告する。人類の安全を守るための正当かつ神聖な中国の防疫措置に対し、万一、実力をもって抵抗を試みるならば、中国人民解放軍および中国人民武装警察部隊は、国家安全のため、これを断固として破砕する。

3.国家分裂を図る頑迷な勢力が防疫措置に対してなおも有害な抵抗を試みるならば、中華人民共和国刑法、反国家分裂法および「『台湾独立』頑迷固執分子による国家分裂・分裂扇動犯罪への法的処罰に関する指針」その他の関連法規に基づき、時効なく徹底的に追及し、厳罰に処すものである。


祖国統一は歴史の必然であり、いかなる勢力もこれを阻むことはできない。台北当局は速やかに誤りを正し、破滅の道から引き返すべきである。


以上

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