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【新改訂版】T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第2章 封鎖 T-DAY プラス0〜1日

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203Y年2月3日 与那国島

203Y年2月3日

日本 沖縄県八重山郡与那国町 与那国島

日付が変わる前の深夜。

漆黒の闇に包まれた東シナ海の白い荒波を、老朽化した貨物船「龍豊《ロンフォン》号」が低く濁ったエンジン音を響かせて進んでいた。船体にこびりついた赤錆は東南アジアの港を転々とする弱小海運会社の哀愁を演出している。掲げられたパナマ国旗は便宜置籍船としての仮面に過ぎない。だが船体内部には外観とは不釣り合いな黒光りする電子機器が並んでいた。船橋では油まみれの作業服を着た男たちが、青白い光を放つモニターを凝視している。

画面には海底の複雑な隆起とともに、石垣島とその北方・東方にある日本本土を与那国島と繋ぐ情報の動脈――海底通信ケーブルの細いラインが鮮明に描かれていた。


「目標捕捉。深度70。――投下せよ」


船尾のハッチが開き、鋼鉄製のグレープル・アンカーが海中へと滑り落ちる。複数の鋭利な爪を持つ錨は暗黒の海底で砂を掻き分け、標的を捕らえた。船体が微かに震え、強靭な光ファイバーを保護する外装鉄線が、数千トンの船体による牽引力に抗いきれず悲鳴を上げる。

次の瞬間、数千本の通信回線を支えていたガラス繊維が限界を超えて一気に破断した。


日本最西端の地、与那国島。台湾からの距離110km、石垣島から120km、東西に長いひょうたん型をした面積約29平方kmの小島に2300人の住民が暮らし、陸上自衛隊与那国駐屯地には二百数十名の自衛官が起居する。

その島の中央部、日本最西端の「最高峰」として君臨する宇良部岳。標高231メートルの頂付近は、巨大な扇状の葉を持つビロウや、気根を垂らしたアコウ、オオバギといった植物が密生する、夜霧に濡れて鬱蒼とした亜熱帯の森に覆われながら、沈黙していた。

濃い霧を割り、複数の影が音もなく湿った斜面を駆け上がる。1週間前から観光客を装って潜入し、あるいは深夜の海岸からスクーバ潜水で密かに上陸を果たしていた彼らの着衣には徽章の類も文字も一切ない。防水加工を施された登山用のタクティカル・ウェアは、この島を訪れるバードウォッチャーやハイカーたちの格好に酷似しており、実際数日前、観光客用のレンタサイクルを借りて、宇良部岳山頂へと続く林道を下見していた。だが鋭すぎる眼光と、雨蓋を開けたパックから取り出された旧チェコスロバキア製、折り畳み式ワイヤーストックを備えたVz 61「スコルピオン」短機関銃の放つ無機質な冷気が、彼らの異質さを雄弁に物語っていた。


「黒龍《フンニョン》1より黒龍《フンニョン》全隊……目標1、配置完了」


先頭の指揮官が低く抑えた声で無線に囁く。眼前にそびえ立つのは、島内の通信を一手に司る大手民間移動通信事業者の携帯電話基地局の巨大な電波鉄塔だ。晴れた日にはここから西の水平線上に台湾の山並みを、東には石垣島の島影を望むことができる。だが今夜の視界は霧に閉ざされ、鉄塔の先で明滅する航空障害灯の赤い光だけが脈動を繰り返していた。

工作員たちは熟練の手つきで、鉄塔の支柱基部、非常用電源ユニット、そして交換機の心臓部へと、プラスチック爆薬を加工した成形炸薬を設置していく。付近ではヨナグニウマの放牧地から迷い込んだのか、馬の嘶きが霧の向こうからかすかに響いた。

作業は数分で終わり、全員が林道を足音をほぼ立てずに、しかし急いで駆け下った。1人が手首の軍用時計を確認し、短く頷く。


「起爆(キボク)」


朝(・)鮮(・)語(・)の号令と共に、深夜の静寂を、鼓膜を貫くような衝撃音と凄まじい閃光が引き裂いた。指向性を計算し尽くされた爆薬のエネルギーは、分厚い鋼鉄の支柱をバターのように容易く切り裂く。オレンジ色の火柱が夜空を焦がし、数秒の空白の後、巨大な鉄塔が自重に耐えかねてゆっくりと傾き始めた。

金属が擦れる軋み声を上げながら、電波塔は山肌を削り、亜熱帯の森をなぎ倒して崩落した。落下の衝撃で大地が揺れ、引きちぎられた通信用ケーブルが闇の中で青白い火花を散らす。基地局の制御盤は爆発の熱でドロドロに溶け落ち、電子回路の焼ける異臭が雨上がりの森に漂った。

麓の祖納集落、西側の久部良集落、そして南側の比川集落では、島民の多くが温かい布団の中で深い眠りについていた。テレビドラマのロケ地として知られる比川集落の静かな浜辺には、ただ波音だけが打ち寄せていた。だが、枕元に置かれたスマートフォンのアンテナ表示が、静かに「圏外」へと変わる。居間のルーターのランプは、接続異常を示す不吉な赤色の点滅へと切り替わった。

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