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第7話 雄蜂

 世界中に散らばって、情報という名の「蜜」を集め女王の元へと運ぶ。ユダヤ人は世界地図をエリアごとに分け、その地区の人口数、教育や衛生観念の高低、政治や言語統治の充足に応じて諜報部門の人員を割り当て、地域ごとに担当となる監督する者を当てはめた。その要となる存在が「王蜂」(キングビー)というコードネームを持つ者たちである。


 自然界のミツバチの生態に「王」という存在は存在しない。だが「王」という名称を名乗っていいほどの権力と義務を、彼らは有している。緊急時には彼らは本部の命令を待つことなく、独自に判断、指示を下してよい許可を得ていた。時には上官にあたる人物にさえも命令を下し、祖国に敵対する存在には処断する権限さえも有していた。それほどまでに、彼らの存在は重要なのだ。


 各地の「王蜂」にアラブ人の行動を調査するように命令が下され、第一に行われたのはタクシーの運転手への情報の聞き込みだった。世界各国の諜報活動の組織が様々な方法で情報収集を試み、その国の政治組織に諜報員を潜り込ませる中、ユダヤ人が行っているのはその国の交通機関の「買収」であった。特にタクシー会社には、諜報員の大半を潜り込ませているほどである。


 初めて外国を訪れる旅人は、必ずと言っていいほどタクシーを利用する。日本人には理解できないかもしれないが、「歩く」という行為は旅に慣れている人ほど選ばない。金品を失うどころか命を失う可能性が高いからだ。バスや鉄道などはいつ来るか分からないうえに、故障などのトラブルに巻き込まれる危険性がある。タクシーが一番安全、かつ素早く行動できるのだ。


 見知らぬ旅人を見かければ、必ず会話の一つに上がるものだ。しかも奇妙な行動をとれば、嫌でも目立つ。アラブ人の足取りは容易に掴むことはできた。各地の「王蜂」の情報は、「女王」のもとに集められ精査された。そして地図上に表示すると、奇妙な事実が現れた。アラブ人は世界各地の「河川」の上流を訪れては、その地点で二時間近くパソコンを使いながら「何か」をしていたらしい。


 そして足早にその国を去っていく。まるで時間が残り少なく、何者かに追われているかのように。他にどこかに立ち寄るわけではなく、誰かに接触するという事もなかった。組織的に何かが動く気配はない。犯罪につながるような動きもない。単独で動いているのであれば大規模な破壊活動はできない。刃物を振り回すレベルならば、その地域の警察に任せればいい。


 しかし何かが不気味だった。この男は「信念」のようなものを抱いて動いている。行動の速さが物語っている。そんな気さえした。「女王」はアラブ人の過去の調査を急がせた。経歴はほぼ掴めている。知的なアラブ人は、必ずと言っていいほど外国の大学に通っている。自国の大学では偏った教育しか専門が無いからだ。宗教が文化だけではなく、教育までも歪めてしまうとは皮肉な話である。


 経歴からは、大学を卒業した後のアラブ人の行動は掴めなかった。現地のアラブ人の屋敷の調査などの細かい情報収集が必要だった。そういう時には「王蜂」は使えなかった。「王蜂」は目立つ行動は許されない。自然界に「王」たる蜂は存在しない。「存在してはいけない」=見つかってはならないのである。


 そのような時に用いられるのが特殊工作員、「雀蜂」のような存在である。「女王」はすでに、もう一人の諜報員にアラブ人の経歴の調査を命じていた。その諜報員のコードネームは「花蟷螂」。花のように美しいが、密やかに忍び寄り獲物を頭から食らう、時には伴侶のオスさえも餌食にする存在である。

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