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悪役令嬢はループ99回で塩対応だった王太子に溺愛される…えっ、なんで?  作者: イトカワジンカイ


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5.攻略対象を回避せよ

廊下には多くの学生が行き交っていた。


友人同士で談笑しながら歩く姿が多く見られ、共に下校しようとしていたり、部活へと向かっているようだ。


シェリルは攻略対象に遭遇しないように周囲に気を配りながら、廊下を進む。


校舎のエントランスへ向かうこの廊下は、学年を問わず多くの学生が通る場所であるので要注意だ。


(確か生徒会に行くオーヴェントもここを通るはず……)


オーヴェント・サルフェル——それが2人目の攻略対象の名前だ。


シェリルの一つ年上で、生徒会副会長をしている。


婚約者であるベルスアークやクラスメイトのエンザとは、どうしても接点を持たざるを得ないが、オーヴェントとは学年も違うため、基本的には接点は無く、こちらから積極的に行動しなければ関わることの無い人物だ。


いや、むしろオーヴェントと出会わなければゲームは開始しないと言っても過言ではないだろう。


だから、絶対に会いたくない人物なのだ。

さっさとこの場所を通り抜けて、エントランスまで行ってしまおう。


そう思ったシェリルは足早に廊下を歩き出した瞬間、前方からオーヴェントの名を呼ぶ生徒の声が聞こえて思わず足を止めた。


「オーヴェント副会長!」


(オーヴェント!?)


声の主である男子生徒が駆け寄った先にはオーヴェントの姿があった。

色白の美しい肌と対照的に、漆黒の闇を思わせる艶やかな黒髪が印象的だ。


彼の真面目で几帳面な性格を表すように、両サイドの髪は切り揃えられている。

深緑の瞳は理知的な印象を与え、切れ長の目が冷静な性格を体現しているようだった。


シェリルは慌てて左右を見回し、身を隠せる場所がないかを探したが、残念ながら見当たらず、仕方なく窓の外を見るふりをして、オーヴェントに背を向けた。


そして顔は正面に向けたままこっそりとオーヴェントの様子を盗み見た。

オーヴェントは駆け寄って来た男子生徒の方へくるりと振り返ると、落ち着いた声で答えた。


「なんですか?」

「この間のクロケット部の予算についてなのですが……」

「あぁ、これですか」


男子生徒から手渡された書類に目を通しながら、オーヴェントは予算の説明を始めたようだ。

これならば、さっと通り過ぎてしまえば気づかれないだろう。


位置的に、オーヴェントの横を通り過ぎてしまえば、彼からはシェリルの後ろ姿しか見えないはずだ。

シェリルは頭の中でそう算段をつけると、小走りでオーヴェントの横を通り過ぎた。


(バレませんように!)


ドキドキと心臓の音がうるさいくらい響く。

なるべく視線を逸らし、オーヴェントの方を見ないようにして進む。


スタスタスタと半ば逃げるようにして廊下を抜け、無事にエントランスまで来るとシェリルは大きく息を吐いた。


緊張で息を止めていたようだ。

それに手汗がやばい。


「はぁ~、焦ったわ。バレてないわよね」


後ろから追ってくる気配もないし、この様子だとオーヴェントには気づかれなかったようだ。


(やっぱりあの廊下は生徒会に向かうルートでもあるし……迂回して帰ることも検討した方がいいわね)


幸か不幸かシェリルは98回もこの学校に在籍しているわけで、隅々まで把握しているため抜け道も迂回路も熟知している。


少し遠回りになるが今後は別のルートで帰ることにしよう。

毎日このようなスリルを味わいたくない。

オーヴェントと鉢合わせするよりずっとマシだ。


あとは、正門まで一気に行ってしまえば今日も無事にイベントは回避できたことになる。


ベルスアークは毎日生徒会室に行ってから帰るため、この時間にここで会うことはないからだ。


(はぁ……今日も無事イベント回避できたわ)


緊張から解き放たれ、気が楽になったシェリルが正門へ向かうと、女子生徒たちが立ち止まり、赤い顔をして正門の方に熱い視線を向けていた。


「え? な、何事?」


首を傾げながら進んでいくと、前方から女子生徒たちの甲高い声が聞こえてくる。


彼女たちの視線の先にいたのはベルスアークだった。


(げ……あそこにいるのってベルスアークだわ! って、なんでこんなところにいるの!?)


シェリルは思わず顔を顰めて立ち止まった。


すっと通った高い鼻梁に整えられた美しい眉、薄い唇の男性は遠目から見ても美男子という言葉がぴったり合う。


涼し気な目元の奥にある瞳は王家特有の碧と青の不思議な色合いのものだ。


ホワイトブロンドの長い髪が陽に当たって煌めき、「THE王子」というようなキラキラの空気を振りまいていた。


さすがはメインキャラで王太子である。


他のモブキャラ男子とは別格すぎる美形だ。


シェリルがもし悪役令嬢ではなくモブキャラであったら、他の女子生徒と同様に「キャー」と憧れの眼差しを向けるだろう……かは、定かではないが、とにかく目立つので思わず見てしまうのは確実だ。


(まぁ、私がモブキャラだとしても、あまりにも煌びやかすぎて、正直近づきたくないわね)


一方で数人の女子生徒たちがベルスアークを囲み、うっとりとした表情を浮かべて盛んに声をかけている。


「ベルスアーク様、ごきげんよう」

「ベルスアーク様、今度ぜひ我が家の夜会にお越しくださいませ」

「ベルスアーク様、こちら珍しい品種の花です。ぜひお持ちくださいませ!」


だがそれに対し、ベルスアークは特段反応するわけでもなく、まるで彼女たちが目に入っていないかのように平然と通り過ぎようとしている。


ベルスアークはいつもクールで表情を変えることは稀だ。


どんなに女性がアプローチをしても、無視したり、相手をしないことが当たり前。

挨拶ができたらまだマシという存在だ。


だが、そこが素敵だとベルスアークの人気が衰えることはない。


(私には理解できない世界だわ。クールなイケメンがいいってのは漫画の中だけで、リアルだと普通に態度の悪い嫌な男としか思えないんだけど)


それにしても、ベルスアークはいつも放課後は生徒会室にいるはずなのに、どうして正門にいるのだろうか?


というか、正門前で女子生徒たちに囲まれたまま、ベルスアークは帰る様子がない。

したがって、シェリルは帰るに帰れない状況になってしまった。


オーヴェントの時のように、そっと横を通り過ぎればバレずに正門の外に出られるだろうか。

そう考えを巡らせていた時だった。

シェリルの横を一人の女子生徒が駆け抜けていった。


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