表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第6章 「灰降る国」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/114

第八十九話

「助かるから」


その一言は。


炎脈の奥深くへ静かに響いた。


炎竜は黙ったまま。


シオンを見つめている。


長い時を生きた瞳。


数え切れない別れを見送ってきた瞳。


その瞳が。


わずかに揺れた。


『……根拠は』


小さな問い。


希望を持つことが怖い。


そんな声だった。


シオンは迷わない。


「診たから」


短い答え。


それだけだった。


世界樹の診察記録が。


再び光る。


しかし。


今までとは違う。


文字は浮かばない。


代わりに。


一枚の絵が現れた。


黒く染まった心臓。


その中心に。


小さな金色の光。


消えそうで。


それでも。


確かに燃えている。


シオンは指を差す。


「ここ」


「まだ生きてる」


炎竜は目を閉じた。


『まだ……』


『残っていたか』


まるで。


自分でも忘れていたように。


ホタルが嬉しそうに笑う。


「ほら!」


「まだ大丈夫!」


炎竜も。


ほんの少しだけ笑った。


その時。


ゼノが静かに息をつく。


「だから薬師は厄介なのです」


その声には。


初めて苛立ちが混じっていた。


彼は杖を握り直す。


黒い霧が渦を巻く。


「希望は」


「絶望より残酷だ」


「届かなかった時」


「人は二度壊れる」


その言葉に。


カインが俯く。


それは。


何度もゼノから聞かされた言葉だった。


希望を持つな。


期待するな。


そうすれば傷つかない。


シオンはゼノを見る。


そして。


静かに答えた。


「違う」


「傷ついても」


「誰かが一緒なら」


「また歩ける」


静寂。


ホタルが頷く。


ノアも。


アカネも。


ルナも。


アルヴァも。


皆がその言葉を知っていた。


一人では歩けなかった。


でも。


誰かが手を差し伸べてくれた。


だから。


ここまで来られた。


その時。


炎竜がゆっくりと翼を広げる。


巨大な翼。


黄金の羽ばたき。


熱風ではない。


温かな風が。


炎脈を吹き抜ける。


黒い泥が。


少しずつ剥がれ落ちていく。


灰の騎士たちも。


苦しそうな表情から。


穏やかな顔へ変わっていく。


炎脈そのものが。


呼吸を取り戻し始めていた。


しかし。


世界樹の診察記録の光が。


突然赤く変わる。


全員の表情が引き締まる。


新しい文字が浮かぶ。


『警告』


その下には。


たった一行。


『ヴェルグが動く』


静寂。


同じ瞬間。


火山の頂上。


誰もいないはずの黒い柱の上へ。


一人の男が静かに降り立った。


銀色の仮面。


黒いローブ。


風に揺れる長い髪。


彼は火山を見下ろし。


小さく呟く。


「ようやく」


「会えるね」


その視線の先には。


シオンがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ