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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第6章 「灰降る国」

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第百話

火山の頂。


灰が舞う。


黒い柱の上に立つ男。


銀色の仮面。


風に揺れる黒いローブ。


誰もその姿を見間違えなかった。


ヴェルグ。


千年前。


世界を裏切った男。


しかし。


彼は剣を抜かなかった。


魔法も放たない。


ただ。


静かに火山を見下ろしていた。


その視線は。


炎竜でもない。


ホタルでもない。


ゼノでもない。


まっすぐ。


シオンへ向けられていた。


「ようやく会えた」


穏やかな声。


どこか懐かしい響き。


アルヴァが一歩前へ出る。


『ヴェルグ!』


怒号が火山へ響く。


炎竜も翼を広げる。


ゼノは静かに頭を垂れる。


「お待ちしておりました」


その姿を見て。


カインが愕然とする。


「先生……」


「あなたは」


「この人の……」


ゼノは振り返らない。


「私は導かれた者です」


「この世界を終わらせ」


「新しい世界を始めるために」


カインの瞳が揺れる。


信じていたものが。


少しずつ崩れていく。


その時。


ヴェルグが静かに首を振った。


「ゼノ」


「言い過ぎだ」


静寂。


誰も予想しなかった言葉。


ゼノも驚く。


「私は」


「世界を終わらせたいわけじゃない」


火山に風が吹く。


ヴェルグは遠くを見る。


千年前を思い出すように。


「救いたいだけだ」


その一言に。


アルヴァの拳が震えた。


『救うだと……』


『あれだけ壊しておいて!』


ヴェルグは何も言い返さない。


ただ。


悲しそうに目を閉じた。


その姿を見て。


シオンはぽつりと呟く。


「疲れてる」


静寂。


まただった。


誰もが敵を見る。


シオンだけが。


患者を見る。


ヴェルグは。


初めて少し笑った。


「君には」


「そう見えるんだね」


「うん」


シオンは頷く。


「ずっと寝てない人の目」


その瞬間。


ヴェルグの笑みが消えた。


仮面の奥の瞳が揺れる。


千年間。


誰にも言われなかった。


誰も。


自分のことなど見なかった。


裏切り者。


魔王。


世界の敵。


そう呼ばれ続けた。


けれど。


目の前の薬師は。


違った。


「眠れないの?」


静かな問い。


ヴェルグは答えない。


代わりに。


夜空を見上げた。


「眠る資格なんて」


「もうないよ」


その声は。


あまりにも小さかった。


世界樹の診察記録が。


ゆっくりと光る。


しかし。


今回は。


誰にも見えないように。


シオンにだけ。


一行だけ文字を映した。


『最初の患者』


シオンは目を見開く。


最初の患者。


それは。


炎竜ではない。


ホタルでもない。


アカネでもない。


ヴェルグ。


千年前から。


誰にも治療されなかった。


世界で一番古い傷を抱えた人だった。

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