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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第6章 「灰降る国」

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第九十話

ゴゴゴゴゴ……


火山が唸る。


四本目の黒い影は。


まだ柱になりきってはいない。


それでも。


空気は重く。


大地は悲鳴を上げていた。


アカネが立ち上がる。


まだ足元は少しふらつく。


それでも。


その瞳には迷いがなかった。


「急ごう」


シオンは頷く。


「うん」


一行は港町を後にした。


人々は道の脇で見送る。


誰も声は出さない。


ただ。


祈るように頭を下げていた。


アカネが戻ってきた。


それだけで。


小さな希望になっていた。



火山の西側。


切り立った崖。


黒い岩肌には。


無数の赤い筋が走っている。


まるで。


血管だった。


「ここ」


アカネが岩壁へ手を添える。


ゴォ……


赤い紋様が淡く光る。


岩がゆっくり左右へ開いた。


隠された入口。


炎脈への道。


中から熱風が吹き抜ける。


熱い。


しかし。


不思議と息苦しさはない。


「昔は神樹の力が流れていた道」


アカネが説明する。


「だから命を拒まない」


シオンは壁へ触れる。


温かい。


鼓動のような振動。


「生きてる」


ぽつりと呟く。


ナギも壁へ手を当てた。


確かに。


一定のリズムで震えている。


ドクン。


ドクン。


まるで心臓だった。


しかし。


しばらく歩くと。


その鼓動が乱れ始める。


ドクン。


……。


ドクン。


ドクンドクン。


不規則。


苦しそうだ。


シオンは立ち止まる。


「詰まってる」


アカネが頷く。


「この先」


「黒い泥が流れてきた」


「昔は赤い光だったのに」


その時。


ノアが耳を澄ませる。


「聞こえる」


静寂。


「歌?」


とレイン。


ノアはゆっくり頷く。


遠く。


本当に遠くから。


誰かが歌っている。


優しい子守歌。


けれど。


どこか切ない。


ミルが目を閉じる。


「眠く……」


ユグがそっと肩を支える。


「だめ」


歌が始まっている。


アカネが慌てて小さな鈴を取り出した。


チリン……


澄んだ音。


歌が少し遠ざかる。


「守人の鈴」


「歌に飲まれないためのもの」


シオンは鈴を見つめる。


「薬みたい」


アカネが少し笑った。


「……そうかも」


三年ぶりの笑顔だった。


ほんの少し。


でも。


確かに笑った。


その時だった。


ドロリ。


足元の岩の隙間から。


黒い泥が染み出してくる。


熱い泥。


しかし。


炎ではない。


どこか生き物のように蠢いている。


ナギが剣を構える。


「来るぞ!」


泥は集まり。


ゆっくりと人の形になる。


一人。


また一人。


さらに一人。


黒い兵士。


顔のない影。


だが。


その胸元だけが赤く光っていた。


まるで。


消えかけた命の灯火。


シオンはじっと見つめる。


そして。


静かに言った。


「違う」


ナギが振り向く。


「何が?」


「敵じゃない」


静寂。


黒い兵士たちは。


剣を構えていなかった。


苦しそうに胸を押さえ。


炎脈を塞ぐように。


立ち尽くしていた。


まるで。


誰かに。


「ここから先へ行かないで」


そう伝えようとしているかのように。


その瞬間。


一番前の黒い兵士が。


かすれる声で。


初めて言葉を発した。


「……逃げ……ろ」


全員が息を呑んだ。


敵ではない。


この者たちもまた。


火山の奥で起きている何かから。


必死に誰かを守ろうとしていたのだった。

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