第八十五話
灰が降る。
静かに。
絶え間なく。
空は赤い。
火山は唸る。
そして。
広場の中央に立つ少女。
アカネ。
赤い髪が風に揺れる。
だが。
その瞳には何も映っていなかった。
まるで空っぽ。
生きているのに。
生きていないようだった。
首輪が鈍く光る。
黒い首輪。
嫌な気配。
シオンは眉をひそめた。
「痛そう」
小さく呟く。
ナギが頷く。
今回は同意だった。
どう見ても普通ではない。
その時。
広場に立つ黒いローブの男が声を上げる。
「聞きなさい!」
よく通る声。
人々が足を止める。
誰も逆らわない。
「炎神樹は怒っている!」
「我らの罪に!」
「我らの弱さに!」
群衆がざわめく。
不安そうな顔。
疲れた顔。
希望を失った顔。
男は続ける。
「だからこそ!」
「灰の浄化が必要なのです!」
広場の空気が熱を帯びる。
信じている人もいる。
疑っている人もいる。
だが。
皆。
不安だった。
だから耳を傾ける。
その時。
シオンが老人へ聞く。
「誰?」
老人は顔をしかめる。
「あれが灰の司祭」
ガルム
「教団の幹部だ」
また教団。
ヴェルグの手が伸びている。
確実に。
ガルムは両手を広げる。
「アカネ様も我らを認めてくださった!」
静寂。
その言葉に。
群衆がアカネを見る。
しかし。
アカネは何も言わない。
ただ立っている。
まるで人形。
その様子を見た瞬間。
シオンが歩き出した。
「行く」
ナギが額を押さえる。
早い。
いつも早い。
だが。
止める理由もなかった。
シオンは人混みを抜ける。
真っ直ぐ。
アカネへ向かう。
ガルムが気付く。
「誰だ?」
その声に。
広場の視線が集まる。
シオンは止まらない。
アカネの前まで来る。
そして。
首輪を見る。
じっと見る。
診察する。
その後。
アカネの額へ手を伸ばした。
静寂。
広場が凍る。
守人へ。
突然。
触った。
ガルムが叫ぶ。
「無礼者!」
だが。
シオンは構わない。
熱を測るように額へ触れる。
そして。
「熱ある」
即診断だった。
ナギが頭を抱える。
やっぱり。
やっぱりそうなる。
しかし。
その瞬間。
アカネの瞳がわずかに揺れた。
ほんの少し。
今まで全く反応しなかった少女が。
反応した。
ガルムの顔色が変わる。
「離れろ!」
司祭たちが前へ出る。
だが。
シオンは首輪を見ていた。
黒い鎖。
虚無の気配。
そして。
悲鳴。
聞こえる。
首輪の中から。
「助けて」
小さな声。
確かに聞こえた。
アカネ自身の声。
閉じ込められている。
深い場所に。
シオンは静かに言った。
「見つけた」
その瞬間。
アカネの瞳から。
一筋の涙が零れ落ちた。
誰も気付かなかった。
司祭たちも。
群衆も。
ただ一人。
シオンだけが見ていた。
まだ。
彼女は諦めていない。
助けを求めている。
その小さな涙を。




