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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第6章 「灰降る国」

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第八十三話

海底の門が閉じる。


ゆっくりと。


静かに。


だが今度は違った。


絶望の門ではない。


希望を繋ぐ門だった。


海底へ戻ったシオンたちを。


ルナが迎える。


そして。


ノアもいた。


少し驚いた顔をしたのはナギだった。


「え?」


「出てこられるのか?」


ルナが微笑む。


「完全には無理」


「でも少しだけなら」


ノアの身体は淡い光で出来ていた。


半透明。


まるで精霊のようだ。


まだ封印と繋がっている。


だが。


確かにここにいる。


ノアは周囲を見回す。


海。


守護鯨。


神樹。


空。


どれも初めて見る景色だった。


千年ぶりに。


いや。


もしかすると。


それ以上ぶりに。


本物の世界を見ている。


「きれい……」


ぽつり。


それだけだった。


だが。


ルナは泣きそうになった。


ノアが世界を嫌っていない。


まだ。


好きだと思ってくれている。


それが嬉しかった。


その時。


海鳴りの神樹が青く輝く。


枝が揺れる。


葉が舞う。


そして。


一枚の青い葉がシオンの手へ落ちる。


世界樹の葉。


翠風の葉。


そして。


海鳴りの葉。


二枚目の治療素材。


シオンは大切に薬箱へしまう。


その様子を見て。


マリナが苦笑した。


「本当に薬なんですね」


「うん」


即答だった。


神樹が薬草扱いされている。


だが。


もう誰も突っ込まなかった。


その時。


世界樹の葉が光る。


虹色の葉。


診察記録。


そこに新しい文字が浮かぶ。


『第三治療素材』


『炎核の葉』


そして。


場所。


火山の庭。


映像が現れる。


赤い空。


黒い大地。


溶岩の川。


そして。


巨大な火山。


その山腹に。


黒い柱。


三本。


海鳴りの庭より多い。


状況は悪い。


かなり。


ナギが眉をひそめる。


「急がないとな」


世界樹の葉がさらに光る。


すると。


映像の片隅に。


またヴェルグの姿が映る。


黒いローブ。


銀の仮面。


その隣に。


別の人物がいた。


小柄な少女。


赤い髪。


燃えるような瞳。


そして。


首輪。


静寂。


シオンが目を細める。


少女は笑っていない。


立っているだけ。


人形みたいに。


感情がない。


その姿を見た瞬間。


ノアが震えた。


「知ってる」


全員が振り向く。


「え?」


ノアは映像を指差す。


顔色が悪い。


「この子」


震える声。


「泣いてた」


静寂。


「ずっと」


「助けてって」


空気が変わる。


ユグも顔を上げる。


彼女も聞いていた。


かすかな声。


海底ではなく。


もっと遠くから。


誰かの助けを求める声。


今なら分かる。


火山の庭。


あの少女だ。


その時。


世界樹の葉に最後の文字が浮かぶ。


『炎核の守人』


『名はアカネ』


アカネ


『黒い柱の中心にいる』


静寂。


守人。


つまり。


火山の神樹を守る存在。


なのに。


黒い柱の中心にいる。


何かがおかしい。


そして。


葉に最後の警告が現れる。


赤い文字。


滲むような文字。


『残り二十七日』


空気が凍る。


三日。


もう三日失われていた。


時間は待ってくれない。


ヴェルグも。


エルドも。


動いている。


だから。


シオンは立ち上がった。


薬箱を背負う。


世界樹の葉をしまう。


そして。


いつものように言う。


「迎えに行こう」


助けを求める人がいる。


苦しんでいる人がいる。


それだけで十分だった。


こうして。


七つの庭を巡る本当の旅が始まる。


次なる舞台は。


炎と灰が支配する世界。


火山の庭。


そして。


泣くことすら忘れてしまった少女。


アカネとの出会いが待っていた。

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