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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第5章  海鳴りの庭

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第八十話

『ごめんね』


世界樹はそう言った。


ただ一言。


それだけだった。


だが。


その言葉には千年分の後悔が込められていた。


白い世界に静寂が広がる。


アルヴァは動けない。


ルナも。


ノアも。


誰も。


世界樹が謝るなど。


想像したこともなかった。


世界を生み出した存在。


命を育んだ存在。


七つの庭の母。


その世界樹が。


頭を下げている。


『守れなかった』


優しい声。


けれど。


震えていた。


『あの日』


『私は世界を守ることを選んだ』


『でも』


『あなたたちを守れなかった』


光が揺れる。


世界樹の枝から。


無数の光の粒が零れる。


涙のように。


『アルヴァ』


赤い瞳が揺れる。


『ノア』


黒い瞳が揺れる。


『ルナ』


銀色の瞳が揺れる。


『ずっと苦しかったね』


静寂。


アルヴァは唇を噛む。


千年間。


言えなかった。


ずっと。


言えなかった。


そして。


ようやく口を開く。


『……苦しかった』


声が震える。


『本当に』


『苦しかった』


千年分の言葉だった。


怒りではない。


憎しみでもない。


ただ。


苦しかった。


その想い。


世界樹は静かに受け止める。


否定しない。


言い訳もしない。


ただ聞く。


親のように。


アルヴァの涙が落ちる。


ぽたり。


ぽたり。


そして。


膝をついた。


千年背負い続けたものが。


少しだけ軽くなる。


その時。


ノアが震える声で聞く。


「ぼくも……?」


世界樹が枝を揺らす。


『もちろん』


即答だった。


『ずっと探していた』


ノアの瞳が大きく開く。


『見つけられなかった』


『ごめんね』


その瞬間。


ノアの周囲にあった黒い霧が崩れ始める。


ぱらぱらと。


砂のように。


夜が朝に溶けるように。


消えていく。


「ぼく」


「いらない子じゃなかった?」


静寂。


世界樹は優しく答える。


『一度も』


『一度もそんなことはない』


ノアが泣き崩れる。


子どものように。


いや。


本当に子どもだった。


長い間。


泣くことも許されなかった子ども。


その時。


世界が大きく揺れた。


ドォォォォン!!


空間に走る亀裂。


さらに広がる。


ルナが顔を上げる。


「まずい!」


現実世界。


封印の破壊が進んでいる。


このままでは。


心が救われても。


世界が壊れる。


その時。


世界樹がシオンを見る。


初めて。


真っ直ぐに。


『薬師の子』


静かな声。


『お願いがある』


シオンは首を傾げる。


『私を治してほしい』


静寂。


ナギたちが固まる。


アルヴァも固まる。


ルナも。


世界樹が。


治療を求めた。


その時。


シオンは少し考える。


そして。


いつものように頷いた。


「いいよ」


即答だった。


世界樹は笑う。


本当に久しぶりに。


母親のような笑顔で。


そして。


白い世界の中心に。


巨大な光の紋章が現れる。


七つの神樹。


最初の庭。


そして。


世界の根幹へ繋がる道。


そこにあるのは。


千年前についた。


世界そのものの傷だった。


シオンの最大の診察が。


今。


始まろうとしていた。

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