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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 名前のない薬屋

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第八話

ナギは、床に座らされたシオンを睨んでいた。


「とりあえず食べるまで作業禁止」

「……そんなに深刻?」

「深刻!」


「でも棚が」

「後!」


「窓も」

「後!!」


シオンは少し不満そうだった。


その様子にリリがくすっと笑う。

「なんか……姉妹みたい」


「やめて」

「やめろ」

即答だった。


でも息はぴったりだった。

リリはまた笑う。


そんな空気の中、

薬屋の外から誰かの声がした。


「おーいナギ!」

大きな声。


振り向くと数人の獣人たちが立っていた。

皆、警戒した顔でシオンを見ている。


ナギが眉をひそめた。

「……何」


先頭の男が顎をしゃくる。

「その人間、本当に薬師なのか?」


空気が少し変わる。


リリが不安そうに耳を伏せた。


男は続ける。

「昨日、お前が人間連れて歩いてたって聞いた」

「しかも薬師だって?」

「また変なのに騙されてんじゃねぇだろうな」


シオンは静かにその会話を聞いていた。


意味は理解している。

信用されていない。

それは慣れていた。

王都でもそうだったから。


ナギが舌打ちする。

「別に騙されてない、傷治してもらった」

「は?」


獣人たちの視線がナギの足へ向く。

包帯。

腫れも少し引いている。


男たちが顔を見合わせた。

「……マジか」


シオンはそこで立ち上がった。


「見せて」

「は?」

「怪我とか病気」


男たちは困惑する。

会話の流れが急すぎる。

シオンは一人の獣人を指差した。


「右手」

男がびくっとした。


「腫れてる」

「な、なんでわかる」

「握り方変」


さらに別の男を見る。


「咳してる」

「……っ」

「あと寝不足」


空気が止まる。


ナギが小さく呟く。

「また始まった……」


シオンは悪気なく続ける。

「熱ある人もいる」


「たぶん井戸の水」


獣人たちの顔色が変わった。

ルーメンでは最近腹を壊す者が増えていた。


でも原因は分かっていない。

シオンは真剣な顔になる。


「水見せて」

「……水?」

「井戸」


男たちは戸惑う。

けれど、

シオンの目は本気だった。


薬を見る目ではない。

街を見る目。

ナギはその横顔を見つめる。


この少女はたぶん最初から違う。

自分一人を救う気なんてない。

この街ごと、

どうにかしようとしている。


獣人の男が腕を組む。

「……もし治せるなら」

「飯くらいは出してやる」


シオンは即答した。

「行く」

「早いな!?」

ナギが突っ込む。


シオンはもう薬箱を背負っていた。


さっきまで食べろと言われていたのに、

完全に忘れている。


ナギは頭を抱えた。

「だからまず自分を治せっての……!」


リリが小さく笑う。


霧の街ルーメン。

崩れた薬屋の前で。

少しずつ、

人が集まり始めていた。

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