表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第二章 名前のない薬屋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/117

第七話

翌朝、

ルーメンは霧に包まれていた。


白い靄が石畳を這い崩れた建物の輪郭をぼやけさせている。


その中で――。


「……重い」

シオンは大量の木材を抱えていた。

ふらふらしている。

明らかに量がおかしい。


「いや待って待って待って!!」

ナギが慌てて駆け寄る。

「なんでそんな持ってるの!?」


「効率いいから」

「倒れたら効率ゼロだって!」


シオンは真顔のまま首を傾げた。


「……なるほど」

「今理解したの!?」


朝から騒がしい。

ルーメンの住民たちは、

通りの端からその様子をちらちら見ていた。


昨日、人間の薬師が来た。

そんな噂はもう広がっている。


しかも、獣人のナギと一緒にいる。

珍しいどころではない。


シオンは薬屋へ木材を運び込む。

昨日見つけたあの廃屋だ。

昼間に見るとさらに酷かった。

床は抜けかけ壁も傾いている。


「ほんとにここ使うの……?」

ナギが呆れた声を出す。


シオンは店の中央へ立ち、静かに周囲を見回した。


「使える」

「どこが!?」


「空間広い」

「そこ!?」


シオンは真剣だった。


「あと棚置ける」

「うん」


「調剤台も作れる」

「うん」


「寝る場所もある」

「いや最後雑!」


ナギは頭を抱える。


でも、

シオンの目だけは、少し楽しそうだった。


昨日まではただの廃墟だった。

けれど今は違う。


ここから始める。

そう決めた場所だ。


シオンは袖をまくる。


「まず掃除する」

「お、おう」


「あと窓直す」

「できるの?」


「やったことない」

「勢いだけ!?」


シオンは少し考え込んだ。

「……たぶんなんとかなる」


ナギは深いため息をつく。


その時。

店の入口から小さな影が覗いた。


長い耳。

昨日のエルフの少女――リリだった。


「……おはよう」

「おはよう」

シオンは即答した。


リリは少し緊張した様子で腕に抱えていた籠を差し出す。


中には薬草が入っていた。

「これ……余ったから」


ナギが目を見開く。

薬草は貴重品だ。

しかも質がいい。


シオンはじっと籠を見る。


「……乾燥まだ」

「えっ」

「このままだとカビる」


リリの顔が固まる。


ナギが慌てた。

「ちょ、そこ!?」


シオンは悪気ゼロだった。


「でも質はいい」

「葉も綺麗」

「採るの上手」


リリはぱちぱち瞬きをする。

褒められた。


たぶん今、

褒められた。


「……ほんと変わってる」


リリが小さく笑う。

シオンは首を傾げた。


その時だった。

ぐらり。

シオンの身体が揺れる。


「シオン!?」


ナギが慌てて支える。

軽い。

驚くほど。


シオンは少しぼんやりした顔で呟いた。


「……朝、食べ忘れた」

「食べ忘れるな!!」


ルーメンの朝に、

ナギの怒鳴り声が響いた。


通りを歩いていた住民たちが、

思わず振り返る。


その真ん中で。


シオンはナギに説教されながら、

静かに思っていた。


――悪くない。


王都を追い出された時。

もう、

どこにも居場所はないと思っていた。


けれど。


ボロボロの薬屋。

騒がしい狼獣人。

優しいエルフの少女。

冷たい辺境の街。


なのに、少しだけ温かい。


シオンは崩れた窓から、

霧の街を見つめる。


この街には足りないものがたくさんある。


薬。

食事。

灯り。

休める場所。


でも――。


「……作ればいい」


小さく漏れたその言葉を。

ナギだけが聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ