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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第5章  海鳴りの庭

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第七十五話

海底の門。


砕けかけた封印。


残り三十日。


そして。


三本目の黒い柱。


状況は最悪だった。


普通なら。


絶望する。


だが。


シオンは考えていた。


とても真剣に。


「うーん」


ナギが嫌な予感を覚える。


この顔は。


何か思いついた顔だ。


大抵ろくでもない。


「どうした?」


シオンは門を見る。


アルヴァを見る。


ルナを見る。


そして。


「入れない?」


静寂。


全員が固まった。


「……どこに?」


ナギが恐る恐る聞く。


シオンは門を指差す。


「中」


完全な沈黙。


マリナが口をぱくぱくさせる。


ジークが天を仰ぐ。


ミルが小さく首を傾げる。


ユグはなぜか納得していた。


「診察」


シオンは真顔だった。


「近くで見ないと分からない」


ルナが慌てる。


「だめ!」


即答だった。


「門の中は虚無の海なの!」


「普通の人は数秒で壊れる!」


「精神も身体も!」


かなり危険らしい。


しかし。


シオンは考え込む。


「数秒か」


短い。


診察には足りない。


その時。


アルヴァが笑った。


『面白い』


赤い瞳が細くなる。


『千年で初めてだ』


『我を恐れず』


『門に入ろうとする者は』


「怖い?」


シオン。


『……』


アルヴァ。


また調子が狂う。


ナギはもう笑うしかない。


その時。


ルナが何かを決意したように顔を上げた。


「一つだけ方法がある」


全員が振り向く。


「本当に?」


マリナが聞く。


ルナは頷いた。


「でも危険」


静寂。


そして。


彼女は胸元から小さな鍵を取り出した。


銀色の鍵。


美しい装飾。


門と同じ紋章。


扉の紋章だった。


「門番の鍵」


千年間守り続けたもの。


「これを使えば」


「魂だけを中へ送れる」


空気が変わる。


身体ではない。


魂だけ。


虚無の中心へ。


アルヴァのいる場所へ。


だが。


危険なのは変わらない。


戻れなくなる可能性もある。


その時。


シオンが聞く。


「行けば治せる?」


ルナは少し考える。


そして。


「分からない」


正直な答えだった。


「でも」


「真実は見えると思う」


真実。


アルヴァの状態。


虚無の正体。


千年前に何が起きたのか。


すべて。


その言葉を聞いて。


シオンは頷く。


「行く」


即答だった。


ナギが頭を抱える。


予想通り。


ジークも苦笑する。


「止めても無駄だな」


「無駄」


ミルが頷く。


完全に理解されていた。


その時。


ユグが静かに言う。


「一人じゃない」


静寂。


「私も行く」


ミルも前へ出る。


「私も」


ナギ。


ジーク。


レイン。


マリナ。


次々と前へ出る。


仲間だから。


今さら置いていけない。


その光景を見て。


ルナは呆然としていた。


理解できなかった。


千年前にはなかった。


こんな光景。


誰か一人に全てを背負わせない。


一緒に行く。


一緒に戦う。


そんな選択肢は。


彼女の時代にはなかった。


ぽろり。


涙が落ちる。


「いいな……」


小さな声。


誰にも聞かれないと思った。


だが。


シオンは聞いていた。


そして。


「ルナも来る?」


静寂。


ルナが固まる。


「え?」


「一人だったし」


「今度は一緒」


その瞬間。


千年分の孤独が崩れた。


ルナは泣きながら笑った。


初めて。


本当に初めて。


門番ではなく。


仲間として呼ばれたのだった。


そして翌日。


門番の鍵が使われる。


銀色の光。


神樹の光。


翠風の葉。


海鳴りの神樹。


三つの力が重なる。


門がゆっくり開き始める。


その奥には。


星も。


空も。


海もない。


果てのない白い世界。


虚無の中心。


アルヴァが待つ場所。


そして。


千年前の真実が眠る場所だった。

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