表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第5章  海鳴りの庭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/119

第六十八話

出航の日。


港は朝から賑わっていた。


ルーメン中の人々が集まっている。


「いってらっしゃーい!」


子どもたちが手を振る。


職人たちは荷物を積み込む。


薬師たちは薬箱を運ぶ。


ガロンは最後まで船を点検していた。


「よし!」


「沈まん!」


マリナが苦笑する。


「普通は沈まない前提なんですけど」


「海は怖いんだ!」


真顔だった。


その横で。


シオンは船体を見上げている。


「大きい」


人生初の船だった。


ミルも興味津々だ。


「海初めて」


ユグも頷く。


「私も」


樹に近い二人は内陸育ちだった。


やがて。


出航の時間が来る。


船がゆっくり港を離れる。


歓声。


手を振る人々。


遠ざかるルーメン。


シオンは振り返る。


神樹の芽が見えた。


小さい。


でも。


確かにそこにある。


帰る場所。


それを思うと。


少しだけ胸が温かくなった。


「帰ったら大きくなってるかな」


ミルが呟く。


「なる」


シオンが頷く。


その答えに。


ミルは嬉しそうに笑った。


そして。


船は外海へ出る。


そこから三日間。


平和だった。


本当に平和だった。


魚が跳ねる。


海鳥が飛ぶ。


夜は満天の星。


ナギは船首で風を浴びる。


ジークは釣りに夢中。


レインは酔った。


盛大に酔った。


「もうだめ……」


甲板に倒れている。


マリナが笑う。


「海鳴りの庭の子どもでも最初はなります」


シオンは薬を渡した。


「飲む?」


「神様……」


薬師が神扱いされた。


その頃。


ユグは海を見つめていた。


表情が少し硬い。


ミルが隣に座る。


「聞こえる?」


ユグは頷いた。


「近づいてる」


助けて。


助けて。


あの声が。


日に日に大きくなっている。


まるで。


こちらへ気付いたように。


その夜だった。


見張りをしていたナギが異変に気付く。


「……なんだ?」


海が光っていた。


青白い光。


海面の下。


何かが泳いでいる。


巨大な影。


一つではない。


何十。


何百。


無数。


ナギは警戒する。


しかし。


敵意は感じない。


むしろ。


その光は船を囲みながら進んでいる。


マリナが甲板へ飛び出してきた。


そして。


目を見開く。


「そんな……」


震える声。


「海導きだ」


「海導き?」


ジークが聞く。


マリナは信じられないものを見る顔だった。


「海の神樹に選ばれた船だけに現れる守り手です」


静寂。


つまり。


海鳴りの庭の神樹は。


彼らが来ることを知っていた。


待っていた。


その時。


シオンの胸元の種が光る。


そして海の光も応える。


青い光。


緑の光。


二つが共鳴する。


すると。


海面に文字が浮かび上がった。


誰も見たことのない古代文字。


だが。


なぜかシオンだけは読めた。


「え?」


ナギが振り向く。


シオンは文字を見つめる。


そして。


静かに読み上げた。


「急げ」


光が揺れる。


さらに文字が続く。


『封印が限界だ』


その瞬間。


海の遥か先。


水平線の向こうで。


巨大な黒い柱が空へ伸びた。


ゴォォォォォ―――!!


海そのものが悲鳴を上げる。


マリナの顔から血の気が引く。


「あれは……」


海鳴りの庭の方向だった。


そして。


誰も知らない。


深い海底で。


巨大な門がゆっくりと軋み始めていた。


まるで長い眠りから目覚めるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ