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辺境薬師の街づくり  作者: 灯野 しおん
第5章  海鳴りの庭

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第六十七話

翌朝。


ルーメンの会議室には重い空気が漂っていた。


机の上には石板。


そして。


見知らぬ紋章。


七つの庭の紋章とは明らかに違う。


枝でもない。


葉でもない。


海でもない。


星でもない。


円の中に描かれた一本の扉。


そんな奇妙な紋章だった。


「見たことある?」


ナギが聞く。


全員が首を振る。


セレスも知らない。


精霊王も知らなかった。


神樹の記録にも残っていない。


つまり。


七つの庭より古い可能性がある。


静寂。


その時。


ミルが石板へ触れる。


すると。


文字が淡く光った。


そして。


新たな文字が浮かび上がる。


『忘れられた庭』


静寂。


全員が息を呑む。


忘れられた庭。


そんなものは聞いたことがない。


神樹は七つ。


それが常識だった。


だが。


もし。


神樹が語った七つの庭より前に。


何かがあったとしたら。


ユグが小さく呟く。


「隠された」


「?」


「忘れられたんじゃない」


「隠された」


その言葉に。


誰も反論できなかった。


忘れられたのではなく。


意図的に消された。


その方がしっくりくる。


そして。


石板の文字はさらに続いていた。


『海の底で眠る』


『扉を開くな』


空気が凍る。


ジークが眉をひそめる。


「開くなって書かれると開けたくなるな」


「やめて」


ナギが即答した。


全員が頷く。


本当にやめてほしい。


その時。


マリナが青ざめた顔をした。


「待って」


「どうした?」


彼女は震える指で地図を指す。


海鳴りの庭の沖。


巨大な海溝。


誰も近づかない海域。


「沈黙の深海」


守人たちの間で語られる禁域。


そこには昔から伝承があった。


『海底に門がある』


静寂。


ナギが嫌な顔をする。


嫌な予感しかしない。


マリナは続ける。


「ただの昔話だと思ってた」


「でも……」


石板の紋章を見る。


門。


まったく同じだった。


その時。


シオンは別のことを考えていた。


「海の底」


「?」


「苦しいね」


静寂。


みんなが振り向く。


シオンは石板を見ていた。


海の底。


忘れられた庭。


閉ざされた門。


そこに何かがいる。


そして。


ユグが聞いた声。


助けて。


助けて。


ずっと。


助けて。


シオンは静かに言った。


「迎えに行こう」


その一言で決まった。


旅立ちが。


海鳴りの庭への航海が。


そして。


まだ誰も知らない。


七つの庭の歴史から消された、


最初の庭の秘密へ向かう旅が。


三日後。


ルーメンの港。


新しく造られた一隻の船が完成する。


ガロンたち職人の総力作。


帆にはルーメンの紋章。


船首には神樹の葉の彫刻。


その名も。


《みちしるべ号》


ナギは船名を見て笑った。


「珍しくまとも」


ガロンは胸を張る。


「今回は全員で考えたからな!」


どうやら暴走しなかったらしい。


その夜。


出航を前にしたシオンは夢を見る。


深い海。


暗い海底。


そこに立つ巨大な門。


そして門の前で。


一人の少女が眠っていた。


白銀の髪。


閉じた瞳。


その胸元には。


ルーメンの神樹の種と同じ光が宿っている。


そして少女は。


眠ったまま呟いた。


「やっと来てくれるの……?」


その声は。


百年でも千年でも待ち続けた者の声だった。

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